2025.02.17

マーケターが理解しておきたい購買行動に影響を与える4つの要因

マーケターが理解しておきたい購買行動に影響を与える4つの要因

消費者の購買は、文化的、社会的、個人的、心理的な特性の影響を受けます。これらの要因は、マーケターがコントールできるものではありませんが、それぞれの要因を理解し、ターゲット顧客の特性を把握することで、効果的なマーケティング戦略を立てることが可能です。今回は、購買行動に影響を与える要因について解説します。また、これらの要因と、購買行動の関係を把握するための主な方法を紹介します。

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目次

購買行動に影響を与える4つの要因
文化的要因
 - 文化
 - サブカルチャー
 - 社会階層
社会的要因
 - 準拠集団
 - 家族
 - 役割と地位
個人的要因
 - 年齢とライフステージ
 - 職業
 - 経済状況
 - ライフスタイル
 - 性格と自己概念
心理的特性
 - 動機
 - 知覚
 - 学習
 - 信念と態度
各要因と購買行動の関係を把握する方法
 - アンケート調査の回答データ
 - 購買履歴データ(ID-POSデータ)
 - 店内行動データ
まとめ


購買行動に影響を与える4つの要因

消費者が商品を購買したり、サービスを利用する時、その行動は、図1 のように、文化的、社会的、個人的、心理的な特性の影響を受けます(Kotler et al., 1997)。

これらの特性は、単独で存在するわけではなく、相互に影響し合いながら、購買行動に影響をもたらしています。

マーケターには、これらの要因を理解し、ターゲット顧客の特性を把握することが求められます。

というのも、これらについて理解することが、効果的なマーケティング戦略を立てる際に役立つからです。

図1 購買行動に影響を与える諸要因
出典:コトラーら(1997)を筆者が一部修正

文化的要因

文化的要因、すなわち、文化、サブカルチャー、社会階層といった要因は、購買行動に最も広範かつ深い影響を与えます。

文化

文化は、人の欲求や行動を決定する最も基本的な要素です。

人は社会の中で成長する中で、家族や学校、地域コミュニティなどを通じて、基本的な価値観を身につけ、自分自身の好みを認識します。

マーケターは、文化の変化に注目することで、成長する市場を見つけ、需要が見込まれる製品をつくることができます。

例えば、日本の蒸し暑い夏、男性がビジネスシーンでスーツとネクタイを身につけることを当たり前とする文化が衰退し、代わって、ノー・ネクタイ、ノー・ジャケットの文化が台頭しました。

これにより、新たに、ジャケットなしでも見映えの良いワイシャツなど、クールビズ関連市場が誕生し、成長しました。

サブカルチャー

文化には、小さなサブカルチャーグループ、すなわち、サブカルチャー(下位文化)が含まれます。

例えば、若者文化は、若者という特定の世代グループで共有される価値観に基づく文化です。

若者文化としては、ファッション、音楽、流行語などが挙げられるでしょう。

また、注目されているサブカルチャーには、アニメ、漫画、ゲームなど、オタク文化があり、関連市場は大きな規模になっています。

社会階層

社会階層は、職業、収入、教育などによって決定されるもので、例えば、上流階級、中流階級、下流階級などがあります。

同じ社会階層内の消費者は、類似の購買行動、製品やブランドの好みを持つ傾向があります。

かつて、日本国民は一億総中流と呼ばれ、階層が同時代の欧米各国ほど明確ではありませんでした。

それゆえ、巨大市場である中流階級を対象としたマスマーケティングが成功しやすかったのです。

近年では、より細かい分類の社会階層に注目する企業もあります。

例えば、「高質食品専門館」を積極展開している阪急オアシスは、アッパーミドルクラス(上位中流階級。中流階級の中で上位の層)をメインターゲットとしています。

社会的要因

消費者の準拠集団、家族、役割と地位といった社会的要因も、購買行動に影響を与えます。

準拠集団

準拠集団とは、個人の価値観、態度、行動に影響を与える集団や個人のことです。

家族、友人、同僚など、直接的な接触があり、親密な関係を持つ集団や個人のことを、第一次準拠集団といいます。

また、宗教団体、労働組合、趣味のグループなど、価値観や行動に影響を与える集団や個人のことを、第二次準拠集団といいます。

その他、消費者が属してはいないものの、憧れていたり尊敬している集団や個人を、憧憬的準拠集団と呼び、購買行動に影響を及ぼすことがあります。

専門家やオピニオンリーダーが推薦した本を購入したり、インフルエンサーが「最近ハマっている」とSNSで紹介した食べ物を真似して食べた経験がありませんか?

このような購買行動に注目して、インフルエンサー・マーケティングに力を入れている企業も増えていますね。

家族

準拠集団にも含みますが、家族が購買行動に大きな影響を与えるケースもあります。

特に、同居する親や配偶者が、世帯における購買意思決定の主導権を握っている場合、マーケターは、当該商品の実際の消費者のみならず、影響を及ぼす人に働きかける必要があります。

例えば、子が食べる菓子を親が買う場合、マーケターは、親が「子どもに食べさせたい」と思う菓子はどのようなものかを考え、親に向けた訴求メッセージを検討します。

役割と地位

多くの消費者は、家族や学級、会社、自治会、クラブ、協会、組織など、同時に複数のグループに所属しており、そこでの役割と地位は、グループごとに異なります。

所属するグループにおける役割と地位が、購買決定の一部に影響を与えることがあります。

例えば、勤務先の会社で部長に昇格したことを機に、これまでよりも上質なスーツを仕立てて着るようになる、といった行動は、その地位が購買行動に影響を与えるものといえます。

個人的要因

購買行動は、消費者の個人的な特性、特に年齢とライフステージ、職業、経済状況、ライフスタイル、性格と自己概念にも影響されます。

年齢とライフステージ

年齢とライフステージが変化するにつれ、消費者の商品やサービスに対するニーズは変化します。

ご自身の好みを振り返ってみて、食品、衣類、家具、娯楽に対する好みは、物心ついたころと比べて変化していませんか?

ごく一部を除けば、そのほとんどが変化しているのではないでしょうか。

年齢だけでなく、未既婚や、子の有無と末子年齢、あるいは夫婦共働きか片働きか、など、ライフステージの変化も、購買行動を変える要因となります。

職業

職業も購買行動に影響を与えうる要因です。

例えば、以前、工事現場で働いており、仕事の際に身につける作業着や安全靴をワークマンで買っていた人が、IT企業に転職し、エンジニアになったのを機に、仕事中に着るカジュアル衣料をユニクロで購入するようになった、というケースが該当します。

経済状況

消費者の経済状況、すなわち、可処分所得、貯蓄と資産、借入能力、そして、支出と貯蓄に対する考え方は、購買行動に影響を与えます。

ただし、単純に個人的要因のみが購買行動を規定するわけではなく、景気などの影響も受けます。

例えば、収入が少しずつ上向いてきたとしても、収入の増加を上回る物価上昇が生じている場合、節約意識が強く働き、以前よりも安価なブランドを選択する、といった行動につながるでしょう。

ライフスタイル

個人の生き方や生活パターンをライフスタイルと呼び、購買行動に影響を与えます。

文化的、サブカルチャー的、職業的、社会階層的な背景が同じ消費者でも、ライフスタイルは異なる可能性があります。

マーケターは、自身が扱う商品やサービスの購買が、消費者のライフスタイルの影響をどのように受けるのかを知っておく必要があります。

性格と自己概念

性格と自己概念(自己イメージ)も、購買行動に影響を与えることがあります。

店舗で商品を目にした際、いかにも自分のような性格の人のための商品だと感じ、購入したことがありませんか?

反対に、素敵な商品だけれど、自分には似合わないと思ってしまい、買わなかったことがあるかもしれません。

例えば、自分のことを、堅実な性格で、シンプルなブランドを好むと認識している消費者が、一目ぼれした、ゴージャスでセクシーなスーツを、自分には似合わないと思って、買うのをあきらめる、といったケースが考えられます。

もしも、このような販売機会ロスが多い場合、このブランドは、シンプルなものを好む人にも似合う、というメッセージを発信することで、需要を獲得できるかもしれません。

心理的特性

動機、知覚、学習、信念、態度といった心理的要因も購買行動に影響を与えます。

動機

消費者を、満足を求めて行動させるだけの切迫感のあるニーズを動機と呼びます。

スーパーマーケットの売場で、「この商品、欲しいな」と思った消費者が、「これは絶対に今買わなきゃ!」と思って購買した時、ニーズは十分に高いレベルで、消費者を購買へと向かわせる動機だったといえます。

一方、「別に今買うことはないな」と思い、手に取った商品を棚に戻す場合、消費者のニーズは、行動を起こす動機となるほどには強くなかったというわけです。

知覚

知覚とは、消費者が、情報を選択し、編成し、意味を解釈するプロセスで、購買行動に影響を与えます。

日常生活において膨大な刺激、情報を浴びている消費者は、ほとんどの情報を遮断し、わずかな情報だけを選択的に取得しています(選択的注意)。

また、消費者は情報を自分の都合のよいように解釈する傾向があります(選択的歪曲)。

さらに、消費者は、取得した記憶のうち、いくつかを忘れ、限られた情報だけを記憶します(選択的記憶)。

これら3つの知覚プロセスにより、同じ動機を持つ消費者でも、異なる行動をとることが起きるのです。

学習

消費者は、経験することを通じ、学習します。

学習することで、それ以降の行動に変化が生じます。

例えば、現在、お気に入りの商品があって、繰り返し購入しているとします。

当該カテゴリーの他商品を買うことなく、そのお気に入り商品だけを購入している人は稀で、多くの場合、いくつかの商品を買った経験から学習し、自分の好みや用途などに合った商品を見つけ出し、それがお気に入りになっているのだと思います。

信念と態度

消費者が、ある商品やブランドに対して信念を抱く場合、その信念が商品やブランドのイメージをつくり、購買行動に影響を与えます。

信念は、例えば、消費者が商品やサービスなどに対して持っている知識や意見、信頼に基づきます。

消費者の多くが、自社商品に対して誤った信念を持っており、そのことが購買を妨げているのであれば、マーケターはそれを修正するための策を講じるべきです。

また、消費者が対象に対して抱く、好意的、あるいは非好意的な評価、感情、傾向を態度といいますが、態度も購買行動に影響を与えます。

マーケターが消費者の態度を変えることは難しいので、むしろ、消費者の態度に商品を合わせるように努める必要があります。

各要因と購買行動の関係を把握する方法

ここまで、購買行動に影響を与える、文化的要因、社会的要因、個人的要因、心理的要因について解説しました。

ここでは、いくつかの要因について、購買行動とどのように関係しているかを把握する方法について簡単に説明します。

アンケート調査の回答データ

マーケテイング・リサーチを行い、消費者の個人属性や価値観と、購買経験やブランドに対する態度などを聴取することで、文化的、社会的、個人的、心理的な要因と、購買行動の関係を把握することができます。

要因を表側とし、購買行動に関する回答結果を表頭としたクロス集計を行うことで、どの要因が購買行動に対して、特に大きな影響を与えているかを確認できます。

購買履歴データ(ID-POSデータ)

購買履歴データは、購買行動を直接記録した情報であり、アンケートで聴取した情報よりも正確です。

会員登録時にアンケートを実施し、文化的、社会的、個人的、心理的な特性まで把握しているケースはほとんどないと思いますが、もし把握できていれば、要因と購買行動の関係を精度高く分析することが可能です。

店内行動データ

小売店舗の売場等に設置したAIカメラで取得したデータを用いて、ショッパー(買物客)の性別や年代と、客動線や売場内滞在時間などの関係を分析することが可能です。

また、こうした分析を、店舗の立地別、売場面積別、曜日別、時間別に行うことで、ショッパーがおかれた状況が購買行動にどのように影響を与えているかを知ることができます。

まとめ

消費者が1つの商品、ブランド、サービスを選択した、という現象は、文化的、社会的、個人的、心理的な要因の複雑な相互作用の結果です。

これらの要因は、個人の価値観や信念、社会的な背景など、長期的に形成されたものが多いため、マーケターが影響を与えたり、操作することは、ほとんどできません。

しかし、今回紹介した要因を理解することで、自社の商品やブランド、サービスを提供したいターゲット顧客に対して、効果的なアプローチをするのに役立ちます。

また、今回のコラムでは、若者文化やオタク文化(文化的要因)、インフルエンサー(社会的要因)など、今日的なトピックにも触れました。

是非、本稿の内容を参考に、購買を喚起するために、消費者に対して働きかけてみてください。


*****

参考文献:

Kotler, Philip and Armstrong, Gary (1997) Marketing: An Introduction 4th Edition, Pearson Education.(恩藏直人監修、月谷真紀訳(2014)『コトラーのマーケティング入門 第4版』丸善出版)

青木幸弘、新倉貴士、佐々木壮太郎、松下光司(2012)『消費者行動論――マーケティングとブランド構築への応用』有斐閣

田中洋(2015)『消費者行動論』中央経済社

ダイヤモンドチェーンストアオンライン「新業態の『高質食品専門館』が好調、今年度は『第2の創業』=阪食 千野和利 社長」(2010年6月16日)

この記事を書いた人

鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表

東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。

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