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2021.08.11
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「急がず、怠けず」 with コロナ;茅場町-戦記 DE BELLO KAYABACHO
コニカミノルタマーケティングサービス株式会社代表の岡本が綴るブログ『茅場町-戦記 DE BELLO KAYABACHO』。 第五回はコロナ禍におけるリモート環境で、スピード感を持って業務に取り組む為に大事にしている事を、新渡戸稲造の言葉を例に説明しました。
Haste not Rest not
急がず、怠けず。
少し前に緊急事態宣言の合間を縫って岩手を訪れた。大学時代からの親友が大の新渡戸稲造フリークであり、好きが昂じてTV番組を何本か作ったというある種の奇人と言ってもよいのだが、彼の影響もあり少し空いた時間を利用して花巻にある新渡戸稲造記念館を訪れた。
新渡戸稲造と言えば世界的なベストセラーの「武士道」の執筆や国際連盟の事務局次長としての活躍など数多くの功績を残している日本を代表する偉人の一人である。記念館は運よく平日ということもあり来訪者は私一人だったので短時間で一通り見ることができた。稲造さん本人が書かれた所蔵の中に、英語で書かれた一つの書に目が止まった。少し丸文字で書かれたその文字が冒頭の、「Haste not Rest not」(急がず、怠けず)である。
記念館すらとっとと見て回って次の目的地に、という私の思いを見透かしたような言葉だったのでふと足を止めたのだが、ビジネスにおいて、特にこのコロナ禍の今だからこそとても有効な言葉だと思いこのブログで取り上げてみた。
現代はスピード全盛の時代だ。「アジャイル開発」、「高速PDCA」などなど、KMMSでもスピードを武器にこれまで成長を続けてきた。ビジネスにおいてスピードが重要というのは何も今に始まったことではないようで、経営の神様である松下幸之助さんは、「朝礼暮改では遅すぎる、朝礼朝改だ」と豪語し、指示をコロコロと変えていたそうである。社員が聞いたら震え上がるような言葉を堂々と語れるのも経営の神様たる所以なのだろうが、一般的に朝令暮改にコロコロと計画が変わるのは社員から頗る評判が悪い。ある程度業務に慣れてきたところに、理由なく計画が変わるのは社員にとっては存在の否定と感じるのであろう。スピード経営は経営者と社員のマインドの乖離に繋がる危険がある。
それを防ぐため、アジャイル開発ではメンバー間の共感を重視する。共感が前提にあるからこそ、短期間での仮説変更や計画変更でも納得することができる。実はこの共感はリモート環境には向いていない。同じオフィスで働くことで生まれてくる。「同じ釜の飯を・・」に近い発想だが、GoogleやAmazonなどが個室やリモートよりもオフィスでの協働を重要視していたのはこのためだ。同じオフィスにいれば、別部門だろうが、働き方や話し方や表情や雰囲気から何が起こっているのか感じることができる。ところがコロナはこの共感を完全に分断する。リモートだと、他部門どころか自部門ですらうまくいっているかいないかの実感が湧いてこない。だから業務や方針変更に納得感が持てないし、なんで自分だけという後ろ向きな気持ちが沸きやすくなってくる。
一方の経営陣も、結果が良かろうが、悪かろうが、どうも数値に実感が追いついてこない。コロナの影響なのか、実力なのか、数値の裏にあるロジックに納得が行かないのだ。つまり、仮説の検証がうまくいかない。だから気だけが焦り、計画を無理に変えようと、かなり前のめりな経営となってしまう。後ろ向きな社員と前のめりな経営者という構造になり、これもまた共感を妨げる要因となる。
そんな共感の分断の時にこそ、「急がず、怠けず」の精神がちょうどよい。結果を求めて急ぎ過ぎず、一方でやるべき事を怠けずにきっちり行う。こうした単純かつ健全な精神こそが非常時において人々の心を救う。前のめりになりがちな心を静め、リモート環境においてもメンバーが共感を持てるようなチームを作っていきたい。
江戸時代から第2次大戦に至るという歴史的な変革の時代に数多くの功績を残せた新渡戸稲造の言葉は、このコロナ禍にこそ鋭い響きを持っている。
執筆者
岡本賢祐
2001年コニカミノルタ入社後、ヘルスケア部門の国内新規サービスの医療IT部門を経て、アメリカの販社へ駐在し、会社運営全般を経験。
帰国後は中国での新サービス立ち上げなどに従事し、新事業のマーケティングサービス事業部へ配属。海外のマーケティングサービス会社を買収後、2015年、日本法人としてコニカミノルタマーケティングサービス株式会社を立ち上げ、17年より22年3月まで代表取締役を務める。