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2025.03.18
ロングセラー商品の活性化のカギは消費者行動の理解にある

私たちの周りには、長い歴史を持ち、高い知名度を誇るロングセラー商品が数多くあります。メーカー、小売業にとっては、安定的な売上が期待できる優良商品であり、消費者にとっても信頼のおけるブランドという位置づけであることが多いロングセラー商品ですが、常にライバル商品の挑戦を受けながら生き残っている背景には、絶え間ない工夫があるはずです。そこで、今回は、ロングセラー商品について、6つのケースを取り上げ、マーケティングや販促における工夫、そして、消費者行動との関連について解説します。
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目次
ケース1:サントリー天然水~消費者の意外なニーズを発見
ケース2:キットカット、ガーナ、スーパードライ~コト消費と季節販促
- ネスレ日本「キットカット」
- ロッテ「ガーナ」
- アサヒビール「スーパードライ」
ケース3:森永甘酒~消費シーンの拡大にチャレンジ
ケース4:花王メリット~頻繁なリニューアルでブランドの鮮度維持
ケース5:森永製菓おかしな総選挙~ロングセラー商品の多いメーカーならではの企画
ケース6:日清食品どん兵衛~「10分どん兵衛」の波に乗る
まとめ
ケース1:サントリー天然水~消費者の意外なニーズを発見
すっかり定着している「天然水」という語ですが、実はサントリーの造語だそうです。
この言葉を冠した「サントリー天然水」は、日本人に「お金を出して飲料水を買う」という習慣を根付かせた立役者といえるでしょう。
ロングセラー商品、「サントリー天然水」は、2023年に販売数量が前年比7%増で過去最高を記録したのですが、1リットルペットボトルに限れば、前年比70%増という驚異的な伸長でした。
サントリーが、1リットルペットの予想外の成長の理由を探るために消費者調査を実施したところ、家庭での消費を念頭に置いていた1リットルペットを鞄に入れて持ち歩き、外出先で飲んでいる人の存在が確認できたそうです。
そこで、2024年5月に、図 1 のように、片手で持ちやすいように容器形状をスリム化し、リュックのサイドポケットに入るようにしたことに加え、じか飲みしても恥ずかしくないデザインに変更したところ、2024年6~12月の販売数量は、前年同期比1.5倍超となりました。
この事例は、ロングセラー商品といえども、メーカーでさえ意外に思うような消費者の使い方がある可能性と、こうしたニーズに気付き、それに応じることで、成長する余地があるということを教えてくれます。

図1 「サントリー天然水」1リットルペットボトル容器形状の刷新
出典:サントリー食品インターナショナル ニュースリリース(2024年5月14日)
ケース2:キットカット、ガーナ、スーパードライ~コト消費と季節販促
ネスレ日本「キットカット」
毎年、1月から2月にかけて、合格を祈願して受験生にプレゼントしたり、受験生がお守りや願掛けの目的で購入するお菓子として有名な、ネスレの「キットカット」。
「きっと勝つ」ことを「きっと勝っとう」と言うことから、「キットカット」は語呂合わせでゲンの良い商品だと思われていた九州地方で、あるスーパーマーケットが販促を行うために、ネスレに対して店頭POPを作ってほしいという要望しました。
これがきっかけとなり、地域の店頭POPだけに留まらず、会社を挙げた全国キャンペーンに発展しました。
「キットカット」の成功に他社も追随し、今では「合格祈願市場」「受験応援市場」が生まれています。
ロッテ「ガーナ」
ロッテの主力商品「ガーナ」は、母の日の定番プレゼントとなっていますが、そのきっかけは、社員のアイデアでした。
2001年に、ある社員が「母の日にカーネーションに真っ赤なガーナをそえて贈ったらお母さんも喜ぶのでは」と考え、店頭POPで訴求したことが始まりです。
これが好評を得て、翌2002年から全社的に展開しました。
ロッテの社内に、「ガーナ」のパッケージの赤と、母の日に贈られるカーネーションの花の赤が共通していることに気付いた社員は他にもいたかもしれませんが、販促企画にしようと提案した社員の存在が、「ガーナ」を、数あるロングセラー商品のひとつから、母の日の定番に変えたのです。
アサヒビール「スーパードライ」
アサヒビールの「スーパードライ」は、缶やラベルに桜をデザインした「春限定スペシャルパッケージ」を2015年から発売しています。
銀色の缶の印象が強いからこそ、ピンク色の缶が消費者に与えるインパクトは絶大ですね。
春の食卓や屋外でのお花見など、消費シーンを想像させる効果もある「春限定スペシャルパッケージ」、実は、当時の社長である小路明善氏によるアイデアだそうです。
以上、コト消費の喚起に成功したロングセラー商品を紹介しました。
「キットカット」の場合、上述のキャンペーン展開前の2000年代前半には、大袋商品がお買い得商品として販売されることが多かったといいます。
このように、ロングセラー商品には、ブランド価値の低下という問題がつきまといます。
活性化が課題となっているロングセラー商品をお持ちのメーカーの方は、消費者調査や小売店舗へのヒアリングなどを通じてインサイトを把握し、コト消費の喚起を検討するのも良いと思います。
ケース3:森永甘酒~消費シーンの拡大にチャレンジ
甘酒には、初詣の時に神社でふるまわれるなど、「冬に飲むもの」というイメージがあります。
赤いパッケージが印象的な缶入りの「森永甘酒」も、冬に需要の山があり、夏に谷がある、典型的な冬型商品でした。
一方、一部の地域では、2000年から「冷やし甘酒」を販売していました。
これを、2012年に全国で販売したところ、猛暑下でも飲みやすく、水分、塩分、糖分補給の助けになり、夏バテを防止できると人気を博しました。
これがきっかけとなり、需要の谷だった夏にも消費が伸びるようになったということです。
青い缶にしたことで、店頭で夏向けの商品であることが視覚的に伝わるようになったことも、需要の増加に寄与したと考えられます。
森永製菓は、2024年9月には期間限定で「黒の甘酒」を販売しています。
これは、ブラックココア入りで見た目が黒く、ほんのりココアが香り、まろやかで上品な後味の商品で、黒のイメージのイベント(9月6日の「黒の日」、「ハロウィン」、「ブラックフライデー」)が多い秋にピッタリの商品、という売り出し方をしていました。
「森永甘酒」は、冬(赤い缶)に特化した飲み物というポジションに安住せず、夏(青い缶)、そして、秋(黒い缶)へと、消費シーンの拡大にチャレンジし続けています。
ケース4:花王メリット~頻繁なリニューアルでブランドの鮮度維持
花王のシャンプー「メリット」が発売されたのは1970年で、この時代、一般消費者が洗髪する頻度は週2回程度でした。
フケやかゆみを防止する機能をうたった「メリット」は、消費者のニーズに応えて人気商品となり、1992年には売上高がピークに達します。
この間、人々の洗髪頻度は、1980年代には週3回、1990年代には週5~6回へと増加しました。この頃になると、フケやかゆみを抑えるという機能に対するニーズは相対的に低下し、「メリット」の売上も減少します。
登場から30年を超えた2001年、「メリット」は不振から脱却するために大幅なリニューアルを実施しました。
処方を改良して、髪や地肌と同じ弱酸性とし、「大人から子供まで家族みんなが使えるシャンプー」とうたってターゲットをファミリー層に変更、ボトルの色も見直しました。
これ以降、「メリット」は頻繁に処方の見直しとデザイン変更を行っています。
リニューアルを重ねることで、ロングセラー商品につきまといがちな「古くささ」を払拭し、ブランドの鮮度を保っている好事例といえるでしょう。
ケース5:森永製菓おかしな総選挙~ロングセラー商品の多いメーカーならではの企画
森永製菓には、広く名の知れたロングセラー商品が数多くあります。
各商品の知名度は高いのですが、ブランド数が多いため、1ブランドあたりの広告費、販促費の規模が小さくなってしまい、効果的な広告、販促の展開が難しいという課題があります。
森永製菓が2015年に実施したキャンペーン「おかしな総選挙」は、複数のロングセラー商品のプロモーションを、同時に、かつ、各ブランドの個性が埋没しないようなかたちで実施する、画期的な企画でした(表1参照)。
これは、ドワンゴおよびニワンゴとの共同企画で、ロングセラー商品9品を対象に、ニコニコ動画などを活用したキャンペーンです。
デジタル・マーケティングなので、リーチする対象者はテレビCMなどのマス・マーケティングよりも少ないですが、ニコニコ動画のユーザーを中心に、ネットで面白い情報に反応する層をターゲットとすることができ、コストも抑えられます。
各党の公約は、超高級ホテルのスウィートルームに缶詰、屋久杉の大枝の下で小枝を食べる、初音ミクとのコラボイラスト、ダイオウグソクムシ型おっとっとなど、ユニークなものでした。

表1 「おかしな総選挙」の概要
出典:ねとらぼ(2015年3月30日)を参考に筆者が作成
ケース6:日清食品どん兵衛~「10分どん兵衛」の波に乗る
ケース1で紹介した「サントリー天然水」の事例は、一部の消費者の使用方法がメーカーの思惑とは異なっていたこと、それに気付いたメーカーが、商品を刷新して販売数量の増加につなげた、という内容でした。
ケース6の「10分どん兵衛」も、メーカーにとっては想定外だった消費者行動が起点になっています。
「10分どん兵衛」は、日清食品のカップうどん「どん兵衛」にお湯を注いでから食べるまでの待ち時間を、通常5分のところ、2倍の10分にする食べ方で、マキタスポーツ氏が提唱したものです。
マキタ氏がこの食べ方をTBSラジオ「東京ポッド許可局」で紹介した後、ブログでも「麺がツヤツヤで、ツルツルになって、とても美味しくいただけた」とおすすめしたところ、SNSで話題になりました。マキタ氏は、かなり特殊な食べ方をする、「エクストリームユーザー」だといえます。
この食べ方が面白いと評判になり、真似をしやすいこともあって、試してみた人がSNSに投稿し、クチコミが広がりました。これは、ネタを中心として交流などをして盛り上がる「コミュニケーション消費」の一種と見ることができます。
日清食品は、想定外の消費者行動が生んだ波を静観せず、すぐに「デジタル・マーケティング」で対応し、その波に乗りました。
「どん兵衛」のブランドマネージャーがマキタ氏と対談し、「10分どん兵衛」を知らなかったことを「謝罪」するという内容のコンテンツをウェブサイトに掲載したのです(図 2)。
記事は公開直後にSNSで話題となり、数日後には「店頭からどん兵衛だけが消える」という現象が起こりました。

図2 マキタスポーツ氏とどん兵衛担当者の対談
出典:どん兵衛X(旧Twitter)公式アカウントの投稿(2015年12月18日)
まとめ
長い歴史と高い知名度を誇るロングセラー商品ですが、常に新商品の参入にさらされ、ブランドの鮮度低下による消費者の飽きが生じるリスクを抱えています。
今回紹介した事例は、消費者行動の変化を見逃さず、ニーズに対応したもの、デジタル・マーケティングを駆使して、話題になりにくい商品への注目を集めたもの、小売店舗がつかんだ消費者行動の新たな兆しをメーカーが全社的なプロモーションにつなげたものなど、ロングセラー商品の活性化に成功したものばかりです。
食品の事例が多く、一風変わった取り組みもありますが、日用品であっても、また、保守的なブランドであっても、ロングセラー商品の活性化のカギは、消費者行動の理解にあります。
是非、リサーチなどにより、消費者行動と、その背景にある意識を理解し、ロングセラー商品のマーケティングやプロモーションに生かしていただきたいと思います。
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参考文献:
「サントリー天然水1リットル、販売1.5倍」『日経MJ』、2025年2月14日、11面。
サントリー食品インターナショナル ニュースリリース「『サントリー天然水』1Lペットボトルの容器形状を刷新」、2024年5月14日、https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1481.html、2025年2月17日閲覧。
石井淳蔵(2009)『ビジネス・インサイト』岩波書店。
ネスレ日本株式会社「キットカット・ヒストリー」、https://nestle.jp/kitkat/history、2025年2月18日閲覧。
広告朝日「店頭から始まった大型キャンペーン『母の日に真っ赤なガーナ』を文化に」、2008年7月1日、https://adv.asahi.com/series/campaign/11052640、2025年2月18日閲覧。
PREDGE「東京メトロ・上野駅で桜が満開!アサヒスーパードライが仕掛けた期間限定プロモーション」、2015年4月9日、https://predge.jp/95433/、2025年2月18日閲覧。
読売新聞オンライン「ブーム拡大中 意外と知らない甘酒のヒミツ」、2017年2月20日、https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170220-OYT8T50037/2/、2025年2月18日閲覧。
森永製菓株式会社ニュースリリース「真っ黒な甘酒が新登場!甘酒とココアの絶妙なマリアージュが楽しめる『黒の甘酒』9月3日(火)より新発売!」、2024年8月27日、https://www.morinaga.co.jp/company/newsrelease/detail.php?no=2730、2025年2月18日閲覧。
日経デザイン編(2016)『ロングセラーパッケージ大全』日経BP社。
ねとらぼ「あなたはチョコボール党? それともエンゼルパイ党? 森永製菓が『おかしな総選挙』を開催中」、2015年3月30日、https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1503/30/news035.html、2025年2月18日閲覧。
鈴木雄高「『10分どん兵衛』ブームに見る、新しい消費者行動とマーケティング」、2016年3月3日、公益財団法人流通経済研究所コラム。
どん兵衛X(旧Twitter)公式アカウントの投稿(2015年12月18日、午前11時30分)、https://x.com/donbei_jp/status/677677304244473862、2025年2月17日閲覧。
「話題の“10分どん兵衛”」、2015年11月16日、マキタスポーツオフィシャルブログ、https://ameblo.jp/makita-sports/entry-12096226444.html、2025年2月18日閲覧。
宣伝会議デジタルマガジン「日清食品『10分どん兵衛』 ネットで話題化から売上50%増の裏側」、2015年11月16日、https://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201611/distribution-structure/009085.php、2025年2月18日閲覧。
この記事を書いた人

鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表
東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。
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