2025.02.06

店舗レイアウトが売れ行きを左右する

店舗レイアウトが売れ行きを左右する

同じ業態で、面積も同程度の、同じようなカテゴリーを販売している小売店舗であっても、一方は買いやすく、他方は買いづらいと感じることがあります。ショッパーが「買いやすい」、または、「買いづらい」と感じる要因は、品揃えSKU数、販促物の数、陳列什器の高さ、照明の明るさ、店内BGMの音楽ジャンルや音量など、多岐に渡りますが、中でも、店舗レイアウトは買いやすさに大きな影響を与え、売上を左右する、特に重要な要素です。このコラムでは、インストア・マーチャンダイジング、ショッパーの店内購買行動、そして、顧客体験の観点から、店舗レイアウトについて解説します。

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目次

ショッパーにとって買いやすい売場になっていますか?
インストア・マーチャンダイジングにおけるフロア・マネジメントの位置づけ
レイアウトが変われば客単価も変わる
 - 動線長
 - 立寄率
ショッパーに長い距離を歩いてもらうためのレイアウトとは
「顧客体験」の面でも重要なレイアウト
まとめ


ショッパーにとって買いやすい売場になっていますか?

スーパーマーケットやドラッグストアなどの小売店舗には、限られた売場面積で、いかに大きな売上を獲得するか、つまり、どのようにして生産性を高めるか、という課題が突きつけられています。

一方、メーカーにおいては、消費者ニーズの多様化に合わせ、新商品の開発に加え、新規カテゴリーの創出も進められています。

こうした事情もあり、小売店舗の売場では取扱商品数が増え、新商品の導入も頻繁に行われています。

また、従来のカテゴリーには収まりきらない斬新な商品も登場しています。

「これも売りたい、あれも売りたい」、売る側のそんな思いが詰まった売場ですが、ショッパーから見ると、必要な商品が見つけづらく、選びづらく、買いづらい、ということになりかねません。

そこで重要なのが、ショッパー視点に立ち、買上点数を増やして客単価を高めるという、インストア・マーチャンダイジングの考え方です。

インストア・マーチャンダイジングにおけるフロア・マネジメントの位置づけ

インストア・マーチャンダイジングの領域は図1 に示すように、スペース・マネジメントとインストア・プロモーションに分類できます。

以前に公開したコラム「ショッパーの購買を喚起するために実施する店頭販促」(2024.12.09)では、インストア・プロモーション(店頭販促)の目的、手法、課題について解説していますので、本稿とあわせて是非チェックしてみてください。

今回は、インストア・マーチャンダイジングの中ではスペース・マネジメントに位置付けられ、売場全体に関わる活動であるフロア・マネジメントについて解説します。

フロア・マネジメントは、店舗のレイアウトを計画するものであり、短期的な成果を目指すインストア・プロモーションや、実施頻度が半年に1度など中期的な取り組みであるシェルフ・スペース・マネジメント(棚割の策定)とは異なり、1度確定したら、長期に渡ってそのレイアウトが固定されるものです。

レイアウトは、各カテゴリーの売れ行きを長期的に左右することに加え、ショッパーの買物のしやすさを規定するものでもあり、店舗において大変重要な要素です。

図1 インストア・マーチャンダイジングの領域
出典:流通経済研究所(2016)を参考に筆者作成

レイアウトが変われば客単価も変わる

同じ店舗で、同じカテゴリー、同じ商品を扱っていたとしても、レイアウトが異なれば、売上も異なります。

店舗の改装に伴って実施した売場のレイアウト変更によって、売上が変更前から大きく変化することも珍しくありません。この売上の差は、なぜ生じるのでしょうか。

それは、レイアウトがショッパーの店内における回遊行動を規定するためです。

ショッパー1人の1回あたりの購買金額、すなわち、客単価は、図2 のように模式化することができます。

これを見てわかる通り、動線長、立寄率、買上率、商品単価のいずれか、または、いくつかの要素を高めることで、客単価を高めることができます。

この中では、動線長と立寄率が、レイアウトを工夫することで改善できる要素です。

図2 客単価を規定する要因
出典:流通経済研究所(2016)
太枠は筆者による強調

動線長

動線とは、ショッパーが、入店してからレジで精算をするまで店内を移動した経路(軌跡)のことで、ショッパーの移動距離が動線長です。

動線長が長いほど、ショッパーが店内で接触する情報量、すなわち、視認する売場、商品、販促物の数は多くなります。

そのため、レイアウトを計画する際には、動線長の最大化を目指すわけですが、動線長を伸ばすには、商品カテゴリーの配置を工夫するなど、適切な動線コントロールを行うことが必要です(カテゴリーの配置については後述します)。

スーパーマーケットやドラッグストアなどの小売店舗において、ショッパーが購買する商品の多くは、非計画購買されていることが知られています。

これは、ショッパーが店内を回遊しながら、売場にある様々な情報、特に視覚情報をもとに、短時間で何度も意思決定をしていることを示しています。

ショッパーが店内を移動する距離、すなわち動線長が長くなるほど、非計画購買個数が多くなる傾向があるため(図3)、ショッパーに、なるべく長い距離を歩いてもらい、非計画購買を増やし、結果として大きな客単価となるよう、レイアウトを工夫することが重要なのです。

なお、狭い売場でも動線を伸ばし、非計画購買個数を多くすることは可能です。

コーヒーやワイン、調味料などを販売するカルディのレイアウトは、曲線を多用しています。

ショッパーが、気付けば先ほど歩いた通路を再び通っていることがあるなど、小さな売場で客動線を伸ばす工夫をしています。

2度目に売場前を通過した時、1度目には気付かなかった商品が目に留まって購入することもありそうです(無料のコーヒーを提供することで、飲みながらゆっくり回遊してもらい、滞在時間を延ばし、動線を長くしてもいますね)。

図3 動線長と計画購買個数、非計画購買個数
出典:流通経済研究所(2016)

立寄率

客単価を高めようとする際は、動線長を伸ばすともに、売場への立寄率を高めることも目指します。

売場前を通過するショッパーに立ち寄ってもらうためには、個々の売場を目立たせることもさることながら、売場の並び順が、ショッパーの買物順序や買物中の思考の流れに沿っていることも重要です。

例えば、雑貨エリアに配置していたマグカップ商品を、カップで食べる乾麺の売場の隣に移動することで、マグカップ売場への立寄率が高まる可能性があります(麺とカップの同時購買を期待できます)。

このように、売場の配置は、立寄率にも影響することがあります。

ショッパーに長い距離を歩いてもらうためのレイアウトとは

先ほど、スーパーマーケットやドラッグストアではショッパーが購買する商品の多くが非計画購買によるものだと述べました。

つまり、ショッパーは1回の来店で、予定していなかった複数の売場に立ち寄っているというわけです。

それでは、ショッパーは溢れる好奇心と旺盛な探求心で、あたかも宝物を探すかのように、商品を買い求めるのでしょうか?

恐らく、多くのショッパーは、日常の買物では、そこまで買物を楽しむ余裕はないと思われます。

そうではなく、計画購買する予定の商品が陳列されている売場(売場A、B、Cとします)に立ち寄る途中で――入口から売場A、売場AからB、売場BからC、売場Cからレジへと移動する通路沿いで――目に留まった売場に立ち寄り、商品を手に取り、非計画購買をする、という買い方をするショッパーが多いはずです。

それでは、ショッパーに長い距離を歩いてもらい、非計画購買個数を多くしよう(図3 参照)と考える際、カテゴリーの配置をどのようにするのが望ましいのでしょうか。

個々のカテゴリーの配置は、関連するカテゴリーを隣り合わせるなど、ショッパーの行動パターンや意識の流れを踏まえて決める必要がありますが、動線を長くしようとする場合には、図4 のように、パワー・カテゴリーに位置付けられるカテゴリーを、入口から最も遠い場所に配置すると良いでしょう。

図4 パワー・カテゴリーの配置による動線コントロール
出典:流通経済研究所(2016)

ここでパワー・カテゴリーと呼んでいるのは、図5 の右上の象限に位置付けられる、計画購買率が高く、購買率(来店人数に占める購買人数の割合)も高いカテゴリーです。

図5 計画購買率と購買率によるカテゴリー分類
出典:流通経済研究所(2016)

この図は、コラム「ショッパーの『店内購買行動』はコロナ禍と物価上昇の影響でどのように変化した?」(2024.12.17)でも紹介したカテゴリー分類の考え方で、売場づくりや販促を行う際に重要な示唆を与えてくれるものです。

なお、実際には、売場の奥にだけパワー・カテゴリーを配置するのではなく、主通路沿いに分散的に配置することで、ショッパーに、それらのパワー・カテゴリーの売場に順に立ち寄ってもらうとともに、その間に、非計画購買をしてもらえるように、レイアウトを組んでいきます。

「顧客体験」の面でも重要なレイアウト

ここまでは、主に、ショッパーの1回の買物機会に注目し、客単価の向上を目指すためには、店舗レイアウトを工夫することで、動線長の延伸や立寄率を高めることが重要である、という内容でした。

最後に、小売店舗のレイアウトは、「顧客体験」という意味でも重要な意味を持つ、という話をします。

図6 は、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのバーバラ・カーン教授が提唱した「小売成功マトリクス」です。

この図が示しているのは、小売業視点の「優れた競争優位性」と、顧客視点の「小売命題」の軸で表現されたマトリクス4象限のいずれかで強みを発揮できた小売業が成功するというものです。

図6 カーンの小売成功マトリクス
出典:Kahn(2018)を元に作成

わかりやすい店舗レイアウト、すなわち、ショッパーが行きたい売場に迷わず到達できる状態は、「低摩擦」です。

スーパーマーケットでいえば、ベルクのレイアウトは、まさに「低摩擦」だと言えます。スーパーマーケットらしいレイアウトと言っても良いでしょう。

一方、ドン・キホーテの売場は、「摩擦」がかなり大きいかもしれません。

レイアウトの変更も、一般的なスーパーマーケットの店舗よりは頻繁に行われている印象もありますし、行きたい売場やほしい商品を探すのに骨を折るショッパーも多そうです。

しかし、他のチェーンとは異なる「体験的」な売場になっています。

店舗によっては、菓子エリアなど、意図的にショッパーを迷わせてるのでは?と思えるようなレイアウトですが、珍しい商品が次々と視界に飛び込んできて、つい非計画購買をしてしまいます。

このように、何らかの意図をもって計画されたレイアウトは、店舗がショッパーに対して、どのような「顧客体験」を提供しようとしているかを雄弁に語っています。

この記事を読んでいただいている方には、是非、いつも買物をしている店舗や、業務で関わっている店舗のレイアウトが、ショッパーにどのような「顧客体験」をもたらしているかを考えていただきたいと思います。

まとめ

今回は、店舗レイアウトの基本について解説しました。

通常は、1度レイアウトを決めたら、簡単には変更できません。

そのため、レイアウトを決定する際は、ショッパーの買いやすさを考慮しつつ、動線をどのようにコントロールしたいか、いかに動線を長くするかを考えて計画すべきです。

ただし、動線長を伸ばしたいと言っても、「長い距離を歩かされて疲れた(もうこの店では買いたくない)」と思われないよう、注意が必要です。

また、レイアウトは、店舗がショッパーに提供する「顧客体験」にも関係します。

同一業態だと、取り扱いカテゴリーやレイアウトが似てしまいがちですが、一部のエリアだけでもレイアウトに独自性を持たせることで、店舗の個性や世界観をショッパーに対して強く印象付けることができます。

このコラムが、身近でありながら、大変奥深いレイアウトについて考えていただく一助になれば幸いです。


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参考文献:

Kahn, Barbara E.(2018)”The Shopping Revolution : How Successful Retailers Win Customers in an Era of Endless Disruption,” Wharton Digital Press.

神谷渉(2019)「アメリカ流通における『アマゾン・エフェクト』への対抗策を考える―特集にあたって」『流通情報』51(2)、4-5。

鈴木雄高(2019) 「リアル店舗でも『顧客体験の強化』があたりまえの時代が到来する」、公益財団法人流通経済研究所コラム。

公益財団法人流通経済研究所編『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社、2016年

この記事を書いた人

鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表

東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。

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