2024.12.17

ショッパーの『店内購買行動』はコロナ禍と物価上昇の影響でどのように変化した?

ショッパーの『店内購買行動』はコロナ禍と物価上昇の影響でどのように変化した?

店頭施策を検討する際は、ショッパーの購買行動の理解が前提となります。店頭業務に関わっている方の中には、ショッパーの購買行動に詳しい方も多いと思います。とはいえ、購買行動は、様々な捉え方がある上に、店頭施策の種類によって理解しておくべき購買行動が異なるため、経験豊富な方であっても、「どのような購買行動が、どの店頭施策と深く関連するか」を、整理できていないかもしれません。また、通常、購買行動は短期に大きく変わることは少ないものですが、新型コロナウイルス感染症の流行や、近年の物価上昇により、無視できない変化が生じています。そこで、本稿では、小売店舗におけるショッパーの購買行動の基本を解説した後、コロナ禍や物価上昇を経て、購買行動がどのように変化したのか、事実を確認し、変化について考察します。

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目次

ショッパーの店内購買行動を見る視点
 - 店内動線に着目したもの
 - 売場前での動きに着目したもの
 - 購買の計画性に着目したもの
 - 購買行動の結果に着目したもの
ショッパーの購買行動の変化
 - 新型コロナウイルス感染症の流行と収束、そして物価上昇
 - スーパーマーケットにおけるショッパーの購買行動の変化
まとめ


ショッパーの店内購買行動を見る視点

小売店舗における棚割の策定や販促の企画立案といった業務は、ショッパーの店内購買行動を理解した上で行う必要があります。

そこで、本稿では、はじめに店内購買行動の基本的な見方を確認します。

その上で、新型コロナウイルス感染症や物価高により購買行動がどのように変化したのかを見ていきます。

店内動線に着目したもの

ショッパーが入店し、買物を開始してから、通路を歩き、売場に立ち寄って商品を手に取り、売場を去るということを何度か繰り返した後、レジで会計を済ませるまでの一連の動きを、売場レイアウト上に一筆書きで描くことができます。

この、1人のショッパーの動きを表す線のことを店内動線と呼びます。

調査員による追跡調査や、天井に設置したカメラでの撮影などによって把握できる店内動線の情報には、以下のような重要な購買行動指標が含まれます。

動線長

動線長が長いショッパーは、その分、多くの売場、多くの商品を視認するため、買上点数が多い傾向があります。

そのため、売場のレイアウト考える際には、なるべく動線長が長くなるように売場を配置するケースが多いのです。

パワーカテゴリーを分散配置し、その間に非計画購買されやすいカテゴリーを配置することで、買上点数を増やそうと企図するわけです。

もっとも、体力に不安のある高齢者や、仕事帰りの会社員など、長い距離を歩かされたくないショッパーもいるため、動線長が長くなりすぎないように注意する必要もあります。

通過率

店内の通路を区分し、各エリアを全ショッパーのうちの何パーセントが通過するかを表す指標が通過率です。

入口付近やレジ周辺エリアの通過率は高く、多くのショッパーが通行する外周沿いの通路(いわゆる主通路)の通過率も高い傾向があります。

他方で、中通路は相対的に通過率が低くなります。

外周通路沿いのエンドは販売力の高い売場ですが、それは売場前の通過率が高いことに由来します。

通路の通過率で色分けしたレイアウト図(例えば、通過率が高い通路を赤、低い通路を青で表現したもの)はヒートマップと呼ばれ、視覚的に通過率の高低を把握できて便利です。

売場への立寄率、買上率など

ゴンドラ1本やエンド1か所など、売場単位で把握する指標には、立寄(たちより)率、買上(かいあげ)率、購買中止率があります。

これらは、売場の前で立ち止まった立寄人数、商品を1点以上手に取って売場を去った買上人数、手に取った商品を売場に戻して何も買わずに去った購買中止人数を、来店人数(または、売場前の通過人数)で除した指標です。

立寄率や買上率が、他の売場よりも著しく低い売場や、過去と比べて大きく低下した売場を把握できれば、優先的に改善するなどの意思決定が可能となります。

売場前での動きに着目したもの

ショッパーの購買行動から算出される立寄率や買上率は、売場単位の生産性を表す指標です。

これらは重要な指標ですが、近年、天井に設置したカメラを用いて、さらにミクロな視点で、ショッパーがどの商品を手に取ったのか、売場に戻したのかといった行動を、棚段単位やフェイス単位で捉えることが可能になっています。

また、アイカメラを使用すれば、ショッパーが商品を視認する順序や、商品、販促物の視認率(立寄人数に占める視認した人数の割合)を把握できます。

このようにミクロな視点でショッパーの購買行動を捉えることで、商品のゾーニングやフェイシングをきめ細やかに改善することが可能になります。

購買の計画性に着目したもの 

商品の購買が事前に計画されたものか、計画されていなかったものか、という観点で分類する見方もあります。

計画されていた購買を「計画購買」、計画されていなかった購買を「非計画購買」と呼びます。

ブランド・レベルとカテゴリー・レベルの計画性

商品の購買の計画性には、後述するように、小さな括りであるブランド・レベルまで計画された「ブランド計画購買」と、それより大きな括りであるカテゴリー・レベル(例えば、カップ麺、チョコレート、牛乳)まで計画された「カテゴリー計画購買」があります。

なお、カテゴリーとして用いる商品グループよりも大きな括りで計画して購買した場合(例えば、ランチに食べるもの、おやつ、飲み物)は、計画購買には含めず、非計画購買となります。

非計画購買率の高さ

スーパーマーケットでは、ショッパーが購買する商品の多くが非計画購買によるものであることが明らかになっています。

流通経済研究所が2013年に実施した店頭調査によると、ショッパーが購入した商品全体に占める非計画購買率は77%、計画購買率は23%でした1

ドラッグストア、コンビニエンスストアでも非計画購買率が高いことがわかっています。

1980年代から計画購買率、非計画購買率を調べている流通経済研究所によると、時代により多少の変化はありますが、いつの時代にあっても非計画購買率が高いことは変わっていません。

小売店舗は、新規顧客を獲得したり、既存顧客の来店回数を増やすことは容易ではないため、店内でショッパーに働きかけて、いかにして非計画購買を促すかが重要になってきます。

計画購買、非計画購買の分類

「計画購買」、「非計画購買」は、図 1のように分類することができます。以降では各分類について解説します。

図1 計画性と非計画購買の理由による商品購買の分類
出典:鈴木雄高「店内における消費者購買行動の基礎知識」を元に作成。

計画購買の分類

「計画購買」は、購買された商品が事前にブランドまで計画されていた「ブランド計画購買」、カテゴリーまで計画されており、売場でブランドを決定した「カテゴリー計画購買」に大きく分かれます。

また、ブランドを計画していたものの、何らかの理由で同じカテゴリーの他ブランドを選択した場合を「ブランド変更」といい、当初の計画とは異なるブランドを購買してはいますが、カテゴリーは計画通りなので、計画購買に含めます。

計画購買の内訳をカテゴリーごとに見てみると、多くのカテゴリーではブランド計画購買率は相対的に低く、カテゴリー経過購買率が高いのですが、一部のカテゴリーではブランド計画購買率の高さが目立っています。

ブランド計画購買率が高いカテゴリーの代表格は、たばこです。いわゆる「ブランド指名買い」が多いカテゴリーですね。その他、マヨネーズやコーラなどもブランド計画購買率が高いことで知られます。

非計画購買の分類

スーパーマーケットなどの小売店舗で多く発生する「非計画購買」ですが、購買理由の違いによって4つに分類できます。

  • 想起購買:店内で思い出したことが起点となって購買する
  • 関連購買:他の購買商品との関連から必要性を認識するなどして購買する
  • 条件購買:値引きなどの条件などにより欲求が喚起されて購買する
  • 衝動購買:商品の新しさや珍しさなどにより購買する

「想起購買」は、ショッパー自身が自発的に何かを思い出して、計画していなかった消費を購買するケースもありますが、店頭で商品や販促物を見ることで「あ、家でそろそろコーヒー豆がなくなりそうだった」と思い出し、購買に至る場合も含まれます。

POPに、「そろそろ衣替えのシーズン、●●の準備はできていますか?」などと、想起を促すメッセージを記載することで、想起購買を促すことができます。

「関連購買」は、「これとこれはセットで使う」というカテゴリーの組み合わせで発生しやすい非計画購買です。

スーパーマーケットであれば、「精肉と焼き肉のたれ」などが代表格ですね。関連するカテゴリーを近接陳列する「クロス・マーチャンダイジング」(クロスMD)は関連購買を促すための有効な施策です。

「条件購買」は、価格などの条件がショッパーの購買の条件を満たした場合に発生する非計画購買、「衝動購買」は期間限定や希少性などに反応して生じる非計画購買です。

購買の計画性によるカテゴリーの分類

先に、スーパーマーケットで購買される商品全体でみると、非計画購買率が高いと述べましたが、カテゴリーによって、計画購買率、非計画購買率は異なります。

また、各カテゴリーは、ショッパーに購買される確率(レジ通過客数に占める当該カテゴリー購買人数の割合)、つまり、購買率が異なります。

図 2は、横軸を「計画購買率」、縦軸を「購買率」として、各カテゴリーの値をプロットし、各指標のカテゴリー平均値で象限を分けたマトリックスです。

ここでは4つの象限すべてには言及しませんが、例えば、スーパーマーケットであれば、「計画購買率が相対的に高く」(右)、「購買率が相対的に高い」(上)カテゴリーには、卵、食パン、牛乳、豆腐が含まれます。

このタイプは「パワーカテゴリー型」です。単に多くのショッパーに購買される(購買率が高い)だけでなく、計画購買されやすいので、来店目的になります。

一方、「購買率が高い」(上)ものの、「計画購買率は低い」(左)カテゴリーもあります。

例えば、米菓やチョコレート、野菜ジュースを挙げることができ、「もう一品型」と呼びます。

店舗としては、販促を通じてショッパーに店頭で刺激を与えて、非計画購買を促し、購買点数を増やしたいカテゴリーですね。販促企画者の腕の見せ所です。

図2 購買の計画性と購買率によるカテゴリー分類の考え方
出典:鈴木雄高「店内における消費者購買行動の基礎知識」を元に作成。

購買行動の結果に着目したもの

最後に、「客単価」、「買上点数」、「商品単価」を取り上げます。

図 3は小売店舗の売上高を規定する要因を示したものです。この図からわかる通り、

「客単価」=「商品単価」×「買上点数」

です。

これらの指標は、上で紹介した店内全体や売場におけるショッパーの行動が積み重なった結果を表しています。

図3 小売店舗の売上高規定要因
※「×」は上下の要因の積が、「+」は上下の要因の和が、それぞれ、左の指標となることを表す。
出典:筆者(鈴木雄高氏)作成

ショッパーの購買行動の変化

ここからは、ショッパーの購買行動がどのように変化したのかを見てみます。

その前提として、簡単に近年のショッパーや小売店舗を取り巻く外部環境の変化を押さえておきましょう。1つは、新型コロナウイルス感染症、もう1つは物価上昇です。

新型コロナウイルス感染症の流行と収束、そして物価上昇

新型コロナウイルス感染症は、2019年12月末に中国で発見された後、一気に世界中に広がり、日本でも2020年4月7日に最初の緊急事態宣言が発出されるなど、人々の生活やビジネスに大きな影響を与えました。

その後、世界中で流行と収束の波を繰り返し、日本では2023年5月8日に同感染症が2類相当から5類感染症(季節性インフルエンザと同じ)に引き下げられ、行動制限がなくなりました。

コロナ禍と呼ばれた騒ぎが収まり、人々の消費マインドも回復傾向に向かうとみられましたが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギーや原材料の高騰が引き起こされました。

以降、品目による差はありますが、物価の上昇傾向が続いています。

給与所得も上昇していますが、物価高がそれを上回っているため、2024年12月現在、消費者の「財布のひもは固い」状況だと言えます。

スーパーマーケットにおけるショッパーの購買行動の変化

それでは、スーパーマーケットにおいて、新型コロナウイルス感染症の流行前の2019年から、2024年まで、ショッパーの購買行動がどのように変化したのでしょうか。

スーパーマーケット業界3団体による調査報告書を参照しながら確認していきます。

明らかになった変化(客単価、買上点数、商品単価) 

今回は、各指標の実数(●円、●点)そのものではなく、2019年以降、どのように推移しているかを把握することに主眼を置くため、3つの指標の2019年の値を100として指数化しました。

商品単価は報告書には未掲載なので、筆者が客単価と買上点数から算出した概算値を用いています。

図 4は、スーパーマーケットにおける客単価、買上点数、商品単価の変化を表しています。

図4 スーパーマーケットにおける客単価・買上点数・商品単価の推移
※商品単価は、筆者(鈴木雄高氏)が客単価を買上点数で除して算出した値。
出典:『スーパーマーケット年次統計調査報告書』各年調査より作成

2019年以降、新型コロナウイルス感染症の流行が収束した2023年まで、客単価は一貫して上昇していることがわかります。

2024年も、前年比では減少していますが、微減であり、2019年と比べると11%も高い水準です。

客単価の内訳である買上点数と商品単価はどうでしょうか。

まず、商品単価ですが、上昇を続けていることがわかります。

商品単価の上昇は、ショッパー行動の変化を表している側面もありますが、この期間においては、(値段は高くても品質の良い商品をショッパーが求めるようになった、というよりも)物価上昇の影響を受けた結果だと考える方が自然です。

買上点数はどうでしょうか。

コロナ禍においては、2019年を2~4%程上回っていました。それが、2024年には2019年と同水準に戻っています。

次は、ショッパーの購買行動に生じた変化について考察してみたいと思います。

購買行動や意識の変化に関する考察(購買の計画性、店内滞在時間、PB志向など)

上で紹介したショッパーの購買行動を表す様々な指標は、ショッパー調査を通じて得ることができるものです。

今回は、詳細な購買行動指標が十分にそろっているわけではありませんが、①で確認した、客単価、買上点数、商品単価の推移を踏まえて、購買の計画性や、店内の滞在時間、PBとNBのどちらを志向するかなど、購買行動がどのように変化しているかを考えてみたいと思います。

店内滞在時間、購買の計画性

筆者(鈴木雄高氏)が関わった調査では、コロナ禍の初期は、ショッパーは、なるべく外出したくない、買物はなるべく早く終えたい、他人が触れた物(商品や現金、カゴ、カートなど)に触れたくない、といった意識を強く持っていました。

そのため、コロナ禍の初期は、2019年以前のように、店内に長く滞在して、計画していなかった商品を多数購買する、という買い方は控え、事前に購買する商品を決めておいて、メモをつくっておき、素早く計画購買をして、非計画購買は少しに留める、といった買い方をするショッパーが多かったと考えられます。

2024年、コロナ収束後の物価高の局面において、ショッパーの低価格志向が強くなっています。

一方で、コロナ初期のように店内滞在時間を短くしようという意識は弱まっているでしょう。

これらのことから、ショッパーは、店内では多少時間をかけてでも、納得するまで商品を比較検討して、価格が安い、あるいは、「コスパが良い」商品を選ぶようになっている、と考えられます。

「非計画購買」の中の「条件購買」(他の店より安い、いつもより安い等の理由による)が発生しやすい状況だと言えます。

立寄率、売場滞在時間

売場の立寄率や売場滞在時間はどうでしょうか。

コロナ禍では、計画していなかった商品の売場にはなるべく立ち寄らない、商品に触れる回数を少なくする、という行動が増えました。

一方、2024年の物価高状況下では、例えば、購買を計画していたカテゴリーの代替となる他カテゴリーの売場にも立ち寄って、価格を念入りに確認する、という行動が増えているはずです。

相対的に低価格な商品が揃っている売場では、立寄率が高く、売場滞在時間が長くなっている可能性がありますね。

PB選好

メーカー各社が値上げせざるを得ない状況において、特に大手小売業では、これまで以上にPBの価格訴求を強めています。

NBとの価格差が無視できないほど相対的に低価格なPBが増えています。

そのため、もともとPBを好んで購買していたショッパーだけでなく、本来はNB志向の強いショッパーも、2024年の物価上昇期には、PBを選択する確率が高くなっていると思われます。

まとめ

今回は、コロナ禍が始まる前の2019年から、コロナ禍が収束して、物価の上昇が顕著になっている2024年までの期間に、スーパーマーケットにおけるショッパーの購買行動がどのように変化したか、事実を確認した上で、考察しました。

考察した内容は、一般的なスーパーマーケットを念頭に置いたものです。

実際には、業態や店舗によって、商圏によって、カテゴリーによって、条件が異なるため、ショッパー調査などを実施して確認する必要があります。

購買行動の大まかな特徴は、前半で紹介したような着眼点で見ることができます。

各指標が短期間で大きく変化することはあまりないので、まずは購買行動の基本的な特徴を押さえるようにしていただくことが肝要です。

とはいえ、VUCAの時代において、ショッパーの購買行動に変化をもたらすような事象がいつ生じてもおかしくありません。

コロナ禍のような大きな環境変化があった場合は、調査を通じて変化を捉えていち早く対応することが重要になります。

企業の皆様には、適切な手法でショッパーの購買行動を捉え、ショッパーのニーズに合った売場づくりをしていただきたいと思います。

>>関連記事:コロナ後の日本の消費者行動と価値観の変化

参考文献

  • 鈴木雄高「店内における消費者購買行動の基礎知識」、公益財団法人流通経済研究所編『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社、2016年
  • 田島義博・青木幸弘編著『店頭研究と消費者行動分析』誠文堂新光社、1989年
  • 一般社団法人 全国スーパーマーケット協会、一般社団法人 日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会『スーパーマーケット年次統計調査報告書』2019年~2024年


注釈

  1. 非計画購買率、計画購買率は、ショッパーが購買した商品(ここでは、8,135SKU)に占める非計画購買商品、計画購買商品の割合。出典は参考文献(1)。 ↩︎

この記事を書いた人

鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表

東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。

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