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2022.03.28
鍵は「享楽的」なお金の使い方 先端技術がもたらすリアル店舗の未来:SURVIVE2030
新型コロナウイルスの感染拡大で生活様式が大きく変わり、小売り現場での消費行動にも激変の波が押し寄せている。そんな中、注目されているのがリアル店舗のあり方だ。
テレビ東京のWebオリジナル討論番「SURVIVE2030」(MC:入山章栄教授 早稲田大学大学院経営管理研究科)では、ニューノーマル(新常態)における消費行動の変化と小売り現場のDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル化による変革)をテーマに、その分野の最前線に立つゲストが議論を交わした。
▲左から入山章栄教授、「カスミ」代表取締役社長・山本慎一郎氏、「商人舎」代表取締役社長・結城義晴氏、「コニカミノルタマーケティングサービス」執行役員・齊藤宏
リアル店舗を押し退け、ネットでの購買体験が台頭する時代。茨城県を中心に189店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「カスミ」代表取締役社長・山本慎一郎氏も、消費行動の変化を実感しているという。
「構造改革のためには新たな知見探索が必要だが、まずは足元を見直している。知見を広げる『知の探索』とこれまで培った伝統性を深める『知の深化』、どちらもデジタルを使って成功させたい」と山本氏。入山教授が提唱する「両利きの経営」を下地に、自社の課題と展望を話した。
ブログと雑誌を通じて小売りサービス業のための考え方や情報を提供しているナレッジサイト「商人舎」を主催する結城義晴氏は、リアル店舗の分野でもDXは「(コロナ禍によって)間違いなく加速する」と話す。
約100年前、スペイン風邪大流行の際、非接触のセルフサービスが急速に浸透したのと同様、ニューノーマル時代に合わせた改革にDXが大きな役割を果たすと説明した。
「行動理由」と「勘と経験」の可視化
そうした変革を求められる小売りの現場の一助となるのが、「コニカミノルタマーケティングサービス」が提供するショッパー行動解析サービス「Go Insight(ゴーインサイト)」だ。このサービスは、店舗に設置したカメラを活用してショッパー(買い物客)の属性や滞在、それらの購買行動などをデータ化し、収集データをもとに「コニカミノルタマーケティングサービス」のデータサイエンティストがコンサルティングをするというもの。
「カスミ」でも試験的に調査を実施しており、山本氏は「我々が持つ購買データ(POS)とは違う情報が取れる。店に常駐していなくても『こんな風に見えるんだ』という気づきがある」と評価した。
「違う情報」とはどんなものか。サービスを提供する「コニカミノルタマーケティングサービス」執行役員の齊藤宏は、「これまでのいくつ買ったか、いくら買ったかなどと異なり、店頭で商品を購入するきっかけをつくっている人の行動を解析できる」と話す。
例えば菓子の購入者の場合、POSデータでは最終的にレジで購買をした父母がデータに残るが、「Go Insight」なら実際に 購入を決めてカゴに入れた子どもの行動情報を得ることができるという。
また、例えばヘアカラーを例にとると、色見本の毛束を触った人の購買行動を定量的に示すことで販促物が購買に与えた影響など、これまで“勘と経験”頼りだったプロモーションの効果を可視化することもできるという。
スーパーマーケットの多くは「レジの通過客数=客数」とカウントするため、コンバージョンレート(訪問から購入に至った割合)が見えない。陳列の仕方や商品編成が購買に与える影響を知るために「Go Insight」は効果的と山本氏。
結城氏は「経営者視点の改革はもちろん、現場の人たちにも大いに役立つ。やり手の店長やベテランパートタイマーのスキルや経験を定量的なデータとして可視化し、他の従業員に伝えれば、会社全体が良くなる」と話す。齊藤は「この解析サービスを使い、 マーケターの『やりたい』を実現してほしい」と力を込めた。
こうした顧客の購買行動に加え、「在庫状況や店員の動きなども可視化されれば、小売りのDXはさらに進むはず」と山本氏は言う。「リアル店舗はわざわざ客が買いにくる場所。必要なときに必要なものが揃い、客の期待を裏切らないことが、我々オペレーション側の課題です」。
技術をどう扱うかは扱う側次第と話す山本氏に、結城氏は「日本中の小売業、サービス業の経営者はDXを技術の問題と捉えているが、実は経営イシュー(課題)の側の話なんです」と応じた。
禁欲的と享楽的 深まる二極化
番組後半では、ニューノーマル時代の顧客行動が具体的にどう変化していくかを討論。
結城氏は今後、「禁欲円」消費と「享楽円」消費に分かれていくとし、「将来への不安から生活マネジメントのための禁欲的消費(それに使うお金が「禁欲円」)はさらに絞られてくる。一方で享楽的なところには惜しまずお金を使っていく(それに使うお金が「享楽円」)。ここ1年で表面化してきた。日本経済を回すとき、享楽円の視野を持つと、面白いことができるのでは」とコメント。
同じ財布の中に入っている「円」も使い方が分かれる。この傾向はスーパーマーケットでも顕著だ。短い時間での禁欲的な消費か、ゆったり滞在しての享楽的な消費か、来店客に合わせた店づくりが求められ、両者に対応するためには顧客データの分析がより大切になってくる。
デジタル技術の活用がより期待される中、どのようにデータを読み取るのか……これからは「人」側の課題がクローズアップされていくという。
齊藤も「Go Insight」はAIを活用しているが、決して人を代替するサービスではないと話す。「あくまでマーケターに寄り添うツール。店頭を可視化して楽しい、買いやすい、そしてお客さまが喜ぶような売り場づくりに貢献できれば。」
司会の入山教授は「いままではデータを取るだけでも大変だったところが技術によって『知の深化』ができた。問題はデータを使ってどんなインサイト(洞察)を得て、客に新しい価値を提供するか。この『知の探索』の部分がこれからの小売業の競争に求められてくる」と指摘。
「クリックすれば手に入るECサイト(ネット通販)は便利だけれど楽しくはない。だけどリアルな店舗は、楽しいと思う方が買うわけで、大胆に言えばもっとエンタメ空間になっていく可能性がある。楽しむために買い物に行く。小売りの現場がそういう場所になることを期待したい」と語った。
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