2021.09.02

将棋ブームから読み解くAIと店舗DXのこれからの形【対決から共存へ】

将棋ブームから読み解くAIと店舗DXのこれからの形【対決から共存へ】

小売・流通業界のDX化について、考えたことはありますか?将棋界を例にして、小売・流通業界のDX化について考えてみました。キーワードは「対立から共存へ、効率化から楽しさへ」。様々な小売・流通のデジタル推進担当者様や、メーカーのマーケティング部門等のクライアント様とのお話した知見を元に、店舗のDXについて考えていきます。

こんにちは、マーケティングデータコンサルタントの清水です。

最近はDX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が随分と浸透してきましたね。私も様々な小売・流通のデジタル推進担当者様や、メーカーのマーケティング部門等のクライアント様とお話をしていると、

  • 社内(部内)でDX化を進めていきたいのだが、何から手を付ければよいのか分からない
  • DX店舗を作っていきたいのだが、どのようにシステム化を進めていけばよいのか?

などといったお悩みを頂戴することが多くなりました。


実は、AI(=人工知能)がバズワードとなった2018年頃にも同様の流れがあり、「DX」のところをそのまま「AI」に置き換えたようなお悩みを過去にも頂いていたことを思い出しています。

今回はその際の知見も踏まえ、AIと店舗DXのこれからの形について考えてみたいと思います。

将棋ブームから感じたAIのこれから

突然ですが、今回はこんなお話から始めてみましょう。
少し前ですが、将棋の藤井聡太二冠が最年少でタイトルを獲得したことが大きなニュースとなりましたね。棋聖・王位と立て続けにタイトルを獲得され、将棋ファンならずとも多くの方がその活動に注目しました。これからの活躍がますます楽しみです。

藤井二冠は棋聖のタイトル獲得後のインタビューでこう応えていました。

  • (人間とソフトは)今は対決の時代を超えて、共存という時代に入った
  • (ソフトを活用することで)見ていただく方にも観戦の楽しみの1つに

私はこの受け答えに大変感銘を受けたのですが、同時に店舗のAI化やDX化も今後このような考え方が必要になるのではないか、と感じました。
キーワードは、共存、楽しみ、です。

対決から共存へ

将棋界では「電王戦」と呼ばれる将棋ソフトvs人間の対決が2010年頃から行われてきました。
つまり、人間にとってソフト(AI)は敵だったのです。

藤井二冠が述べられていたのは、この次の「共存」というフェーズです。
もう一度インタビューを思い返してみましょう。

(人間とソフトは)今は対決の時代を超えて、共存という時代に入った

藤井二冠にとって、AIとは対立するものではなく、将棋を始めた時から隣にいた相棒のような存在だったのだと思われます。
敵としてではなく味方としてみなしていたことが、「共存」という言葉に表れていたのでしょう。

翻って小売・流通企業ですが、古くはPOSシステムによる台帳管理から始まり、現在ではEC化や流通網の整備などの多くにシステムが導入され、IT化が着々と進められてきました。

一方で、店舗の現場においてはいまだに「勘と経験」が根強く残っています。例えば、配荷商品と棚割の決定です。

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それぞれの商品カテゴリーには卸・バイヤーが存在します。
店舗に対して配荷商品や棚割を提案することが多いのですが、その際の棚割決定の根拠がまさに「勘と経験」によるところが多いのです。

商品の選択こそがバイヤーによる「匠の技」であり、棚割決定こそが陳列担当者の「腕の見せ所」でもあります。つまり、「自分のテリトリー」なのです。

そこにわけのわからないソフト(AI)が入ってくるのですから、「そんなものに自分の業務を奪われたくはない」と、敵対意識が芽生えることは当然の帰結とも言えます。
ここに、「人とAIの対立」という構図が生まれます。

いかがでしょう、ここまでは将棋界と小売・流通業界は似たような経緯を辿っているように思われませんか。
将棋界では、藤井二冠の誕生により「人とAIの共存」が今後も進んでいくことでしょう。
小売・流通業界も、対立を超えてシステムやAIとの共存を考えていく必要があり、そのマインドこそがデジタル・トランスフォーメーションに繋がるといえるでしょう。

効率化から「楽しさ」へ

次のキーワードについて考えてみましょう。

(ソフトを活用することで)見ていただく方にも観戦の楽しみの1つに

これまでIT化(デジタル化)と呼ばれる施策は、主に業務の効率化を目的として行われることがほとんどでした。
将棋界においても(多少の解釈の違いはあろうかと思いますが)、AI化により多くの棋譜や手筋を効率よく学べるようになるといったメリットが大きかったと感じます。

ところが、このAIの活用自体が「楽しみ」に繋がるというのが今起こっている現象です。こういった画面を見られた方もいらっしゃる方も多いかと思います。【提供:(C)AbemaTV】

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将棋の対局をAIにより自動で形勢判断するシステムで、今までわかりづらかった形勢を勝率といった「指標」で表したり、グラフで「可視化」したりすることで、AIが「対局を見る楽しさ」を提供するようになりました。

さて、翻って小売・流通業界です。


例えばこれまでの棚割管理ソフトやデータ分析システムなどは「楽しさ」を提供できていたでしょうか?


お買い物のためにスーパーなりドラッグストアなりに来店されたお客様は、店舗での商品陳列を楽しみ、新しい販促物やPOPに心を躍らせながら、商品を選んだり購入したりできているでしょうか?


どちらかといえば、店舗経営の効率化のためにシステム化を進めてきたのではないでしょうか。

DX化とは単に効率化を目指すだけではなく、こういった心地よさや楽しさの提供といった側面も大きいと考えています。


それは真の意味でのカスタマーサクセスに繋がると思われ、コスト削減のためのいわゆる「守りのIT」から、顧客満足を最大化しそれを維持・継続させる「攻めのIT」への転換が必要になるといえるでしょう。

ここからは私の野心ですが、ショッパー行動解析サービス「Go Insight」を活用すると、「Aさんが手に取った商品は何と何で最終的に何を買ったか?」が分かってきます。
(Go Insightではこれを「売場接触バスケット分析」として定義しています。)

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このようなデータがBさん、Cさん、Dさん・・・と溜まってくると、何ができるでしょうか?
「この商品に関心を示した(商品に接触)した人はこんな商品にも関心を示しています。」という案内(いわゆるレコメンド)ができるようになるでしょう。販促にも使えるかもしれません。

  • そういったものが店舗のデジタルサイネージで表示されるようになったら?
  • 日替わりで表示が変わって、売場が毎日少しずつ進化していくとしたら?

きっと消費者は今よりもっと店舗に行くのが楽しくなっていくことでしょう。

より多くの商品を知ってもらい、新たな商品との出会いや様々な商品で迷う「楽しさ」を演出する
私はそういった世界を、AIと共存しながら創っていきたいと考えており、その一連の活動がのちにDX化の好事例と言われるのだろうと感じています。

まとめ

いかがだったでしょうか。
将棋界を例にして、小売・流通業界のDX化について考えてみました。

今回は、対立から共存へ、効率化から「楽しさ」へ、というキーワードを挙げてみましたが、DX化については皆さま様々な所感をお持ちかと思います。
なにかひとつでも新たな気づきに繋がりましたら幸いです。

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