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2025.01.20
小売店舗はショッパーの売場回遊状況を可視化することで売場改善を図れる!
オンラインショップでは、ショッパーの回遊情報を活用し、サイト改善につなげています。一方、小売店舗では、POSやID-POSデータを利用した購買行動の分析が一般的ですが、店内での回遊経路や購買に至るプロセス(Path to Purchase)を把握しているケースは僅少です。本記事では、リアル店舗におけるショッパー回遊状況の可視化の意義について確認し、可視化されたデータを業務改善に生かす考え方をご紹介します。また、売場における回遊情報を活用して成果を上げている「トライアルカンパニー」「イオンリテール」「サツドラ」などの事例も併せて取り上げます。
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目次
リアル店舗でもショッパーの回遊を可視化することが重要になる
- オンラインショップでは可視化されている回遊状況
- リアル店舗では容易ではなかった回遊の可視化
リアル店舗におけるショッパーの回遊の捉え方
- 売場全域におけるショッパーの動線を捉える
- 商品の購買場面に注目してショッパーの行動を捉える
売場前行動の可視化により、売場課題の明確化と売場改善が可能になる
ショッパー行動の可視化を売場評価に生かす考え方の例
- 通過率と立寄率による売場評価
- 立寄率と買上率による売場評価
小売店舗におけるショッパーの回遊状況の可視化事例
- トライアルカンパニー
- イオンリテール
- サツドラ
まとめ
リアル店舗でもショッパーの回遊を可視化することが重要になる
小売店舗(以下、リアル店舗)は、POSデータやID-POSデータとして取得した、ショッパーの購買行動の結果をマーチャンダイジングやプロモーションの改善に活用しています。
リアル店舗同士の競争が主だった時代は、POSデータ、ID-POSデータの上手な活用が、競争優位性につながっていました。
しかし、同じカテゴリーや商品を、リアル店舗でもオンラインショップでも購入することができる現在、リアル店舗でも、オンラインショップがそうしているように、ショッパーの回遊を可視化し、ショッパーのニーズに応えて売場を改善することが重要になってきました。
これまでは、リアル店舗がショッパーの回遊を把握することは容易ではありませんでしたが、AIカメラなどを用いることで、可視化しやすくなっています。
このコラムでは、リアル店舗がショッパーの回遊状況を可視化し、売場づくりに活用することの重要性を解説します。
初めに、オンラインショップにおける回遊の把握について確認しておきましょう。
オンラインショップでは可視化されている回遊状況
インターネット上で商品を購入する場合を考えてみてください。
ほしい商品がはっきりしている場合、ウェブ検索し、表示されるサイトの中から、何となく良さそうなサイトを選び、そこに移動して、ほしい商品があれば購入します。
大手メーカーが製造するナショナルブランド商品など、広く流通している商品の場合は、複数のサイトでその商品の価格を比較して、なるべくお得に買おうとするかもしれませんね(オンライン計画購買)。
一方、SNSのタイムラインに流れてくる情報の波を乗りこなすうちに、ふと目についた広告や誰かの投稿をクリックし、移動した先のウェブページで初めて見た商品に魅了され、全く予定していなかった買物をした経験があるかもしれません(オンライン非計画購買)。
オンラインでは、ショッパーが自社サイトにどこから流入するのか、自社サイト内でページ間をどのように遷移するのか、各ページの滞在時間はどの程度か、など、サイト内でのショッパーの回遊をかなり正確に捉えることができます。
ショッパーのサイト内における回遊状況を、定量的に把握し、グラフやダッシュボード、ヒートマップなどで可視化することも一般的です。
購買に至ったショッパーの情報だけでなく、商品に興味を示し、購買することを検討したものの、最終的には購買しなかった(購買中止に終わった)ショッパーの情報も取得することができるため、「検討」から「購買」に転換する確率を上げるための施策を講じることも難しくありません。
リアル店舗では容易ではなかった回遊の可視化
一方、リアル店舗では、どうでしょうか。
ショッパーが購買した商品の情報は、従来からPOSデータで把握できました。
これに加え、会員カードやアプリとのデータ連携で、ID-POSデータを取得していれば、同時購買している商品の組み合わせ等の詳細な情報も把握できます。
このように、購買という結果に至った場合は、その情報を取得できます。
しかし、リアル店舗では、オンラインにおいて取得される詳細な購買行動――ページ間の遷移の順番や、各ページの滞在時間、ページ内でクリックしたバナー広告やリンクの種類など――に相当する、ショッパーがフロア内で通過した通路、移動した動線、立寄った売場の場所と立ち寄った順、売場ごとの滞在時間、視認した販促物や商品、手に取って売場に戻した商品(購買中止)など、売場における回遊状況を把握することは困難でした。
リアル店舗におけるショッパーの回遊の捉え方
売場全域におけるショッパーの動線を捉える
リアル店舗でショッパーの回遊を捉えるというと、上述したような、移動経路や売場間の移動順序(いわゆる動線)のデータを取得し、ヒートマップなどを作成して可視化することを連想するかもしれません。
もちろん、売場全域でショッパーの動線を把握することで、売場課題を発見し、改善に生かすことが可能です。
ただし、売場全域の行動データを取得することの難易度は高く、コストも大きくなります。
商品の購買場面に注目してショッパーの行動を捉える
一方で、店舗売上を左右するような重要なカテゴリーなど、特定の売場を対象として、ショッパーの詳細な行動――通過、立寄、購買または購買中止など――を把握することの難易度は相対的には高くなく、コストも抑えられます。
そこで、ショッパーの店内での回遊のうち、商品の購買場面(購買の検討、購買および購買中止)に注目し、行動を可視化することで、売場の改善に生かすことを考えてみます。
売場前行動の可視化により、売場課題の明確化と売場改善が可能になる
ショッパーが「購買を検討」した後の行動が、「購買」と「購買中止」に分かれることについて考えてみましょう。
図 1にあるように、「購買」した場合は、リアル店舗でも把握できます。
これに対して、リアル店舗で把握することが難しいのが、「購買中止」です。
商品を「購買」した人数と「購買中止」の人数の合計が「購買を検討」した人数ですから、リアル店舗では、商品の「購買を検討した」人数を知ることが困難である、ということですね。
図 1 購買を検討したショッパーの2つの行動
出典:筆者作成
ある売場や商品を対象として、「購買を検討」、「購買」、「購買中止」したショッパーの人数を把握できれば、「〈1〉売場の問題の特定」と、「〈2〉売場改善策の検討」が、しやすくなります。
例えば、
〈1〉「購買を検討」する人数が少ない(立寄率が低い)ことが問題である
〈2〉売場率を高めるために、POPのサイズを大きくして目立たせる
や、
〈1〉「購買を検討」した人数に占める「購買中止」の割合が高いことが問題である
〈2〉「購買」に転換する確率を高めるために、商品の特徴を伝えるポジショニングマップを設置する
といった対応が可能です。
先日公開したコラム「販促の結果に振り回されていませんか?重要なのは目的設定と効果測定」(2025.01.07)で「店頭販促は、買物モードにある消費者、つまり、ショッパーに対して、働きかけることで、購買を促そうとするものです」と説明しました。
「買物モード」にあり、売場に立ち寄って「購買を検討」したものの、何らかの理由で「購買中止」となっているショッパーは、売場にたくさんいます。
リアル店舗が、新規顧客を増やすことや、既存顧客の来店頻度を増やすことが難しいことと比べると、既に店内にいるショッパー(売場前通路を通過するショッパー、売場に立ち寄って購買を検討するショッパー)に働きかけ、購買につなげることは難しくないはずです。
ある期間に80人が購買した商品があり、購買中止が20人いたとすると、購買を検討した人数は100人です。
もし、何らかの施策により、購買中止率を現在の20%から10%に下げられれば、購買人数は80人から90人へと増加します。
また、購買中止率は変わらないとしても、売場への立寄人数(購買を検討する人数)が100人から120人に増加すれば、購買人数は80人から96人に増加します。
このように、リアル店舗でのショッパーの回遊状況、中でも、売場の前を通過し、立寄って(購買を検討し)、購買に至るか、それとも購買中止に終わるか、という、購買場面における行動を、グラフやダッシュボードなどで表現する(可視化する)ことにより、売場の課題が明確になり、改善のための施策を検討しやすくなるのです。
ショッパー行動の可視化を売場評価に生かす考え方の例
ここでは、三坂(2016)1 が提唱する「売場吸引力と購買転換力を使用した売場診断の考え方」を参考に、可視化したショッパーの回遊状況を売場の評価につなげる方法を紹介します。
なお、図 2と図 3は筆者が考案したものであり、スーパーマーケットの売場を念頭に置いたものですが、ドラッグストアなどでも活用できます。
これらの評価フレームにアレンジを加えるなどして、売場評価と改善にご活用ください。
通過率と立寄率による売場評価
リアル店舗の売場に設置したカメラや、調査員による動線調査などで得られたショッパーの回遊状況を捉えたデータから、売場を評価する際の考え方を紹介します。
図 2は、横軸を「通過率」、縦軸を「立寄率」としたグラフで、1つの売場が1つの点として平面上に布置されます。
あるスーパーマーケット1店舗の20か所の売場で「通過率」と「立寄率」を取得した場合、この平面に売場1から売場20までの20個の点がプロットされるということです。
「通過率」と「立寄率」を、平均値で各々二分割すると、この平面を図 2のように4つの象限(エリア)に分けられます。
「一等地の人気店」に相当する売場は、「通過率」が高く、「立寄率」も高い売場です。
スーパーマーケットでは、牛乳、食パンなど入ることが多いのが、この象限です。
「宝の持ち腐れ」は、「通過率」が高いわりに、「立寄率」が低い売場です。
売場の前を通過する人は多いものの、立ち止まって「購買を検討」する人は相対的に少ないので、立寄率を高める施策を講じるか、立寄率の高いカテゴリーをこの売場に陳列するなどの対応を検討しても良いでしょう。
「路地裏の名店」は、「通過率」が低いので「一等地」ではなく「路地裏」と称しており、そのわりに「立寄率」が高い売場ですね。
「開店休業」は、「通過率」も「立寄率」も低い売場です。生産性は低い売場ですが、ショッパーにとっては、「普段は必要ない、でも、いざという時にこの店に行けば買える」、というようなカテゴリーが、この象限に含まれます。
図 2 売場前通路の通過率と売場への立寄率による売場評価のフレーム
出典:三坂(2016)を参考に筆者作成
立寄率と買上率による売場評価
続いて、横軸を「立寄率」、縦軸を「買上率」としたグラフ図 3を紹介します。
「買上率」は、前述の指標を使う場合、例えば、「購買人数÷立寄人数」で算出できます。
「花型」は、「立寄率」も「買上率」も高い売場です。「購買中止」が少ない、極めて生産性が高い売場ですね。
「客寄せ」は、「立寄率」は高いものの、「買上率」は低い売場です。
エンドや催事売場などで、非常に目立つ装飾を施していたり、話題の(バズっている)商品を大量陳列している場合など、多くのショッパーが立ち寄るものの、購買に至るショッパーが多くない場合画、この象限になります。
「マニア受け」は、「立寄率」は低いものの、「買上率」が高い売場です。
皆が必要とするカテゴリーではないかもしれませんが、一部のニーズを持つショッパーから厚い支持を得ている可能性があります。
固定客のついている商品があるかもしれませんね。認知を高めることで、「花型」へと大化けする可能性もあります。
「閑古鳥」は、そもそも「立寄率」が低い上、せっかく立寄ってくれたショッパーのうちかなりの割合が「購買中止」してしまう、課題の大きな売場です。
購買転換力を高め、「マニア受け」にシフトしたいところです。
図 3 売場への立寄率と買上率による売場評価のフレーム
三坂(2016)を参考に筆者作成
小売店舗におけるショッパーの回遊状況の可視化事例
ここでは、国内でチェーンストア展開するリアル店舗小売業態のうち、ショッパーの回遊状況を可視化し、業務に活用している事例をいくつか紹介します。
トライアルカンパニー 2
日本の小売業で先駆的に情報活用を進めてきた企業が、スーパーセンタートライアル等の屋号で全国に店舗を展開するトライアルカンパニーです。
今から7年前の2018年2月、同社がスマートストア1号店と位置付けるアイランドシティ店をオープンしました。
オープン当初から、主通路上などに設置されたカメラで、ショッパーの性別や推定年代、回遊状況を分析し、棚前のカメラでは、商品陳列状況やショッパーの商品接触状況を記録していました。
イオンリテール 3
イオンリテールでは、AIカメラで、ショッパーの行動を捉え、接客を必要とする人かどうかを自動判定しています。
接客が必要だと判定した場合、従業員に通知が届き、ショッパーを待たせることなくスムーズな接客が可能です。
また、AIカメラでショッパーの店内動線を把握するとともに、売場滞在時間や手を伸ばした棚の情報を自動取得し、ヒートマップで可視化しています。
可視化された情報をもとに、店内レイアウトや品揃えの改善を行えるほか、通路を変更した場合のシミュレーションも行えるということです。
サツドラ 4
北海道でドラッグストアの店舗網を築いているサツドラでは、売場に設置したカメラから収集した映像をAIでデータ化、分析し、店舗運営、売場改善などの実証実験に活用しています。
サツドラがAIカメラなどを活用して回遊状況を把握している目的は、正確なデータを分析することで、「なぜこの商品は売れるのか?または、売れないのか?」「お客様にとり、わかりやすい売場であるか?」「この店舗が業績が良いが、その理由は何か?」などの課題を解決し、買物体験を向上させるための施策を考えることです。
たとえば、サツドラでは、ショッパーの8割が入口から直進するという前提で陳列の設計をしていましたが、ある店舗で回遊状況をデータで確認すると、直進するショッパーは5割だったそうで、この結果は売場づくりに大きなインパクトをもたらしたといいます。
また、取引先メーカーからの、「AIカメラなどを活用して販促実験をしたい」「データを活用して売場を改善したい」といった相談も増えており、協業したメーカーの商品売上が大きく伸長することもあるそうです。
まとめ
高性能なAIカメラの導入コストが低下したことに伴い、天井にAIカメラを設置して、ショッパーの回遊状況を捉えることが可能になっています。
もっとも、フロア全域を対象とする場合、取得できるデータ量が膨大で、せっかく得られた貴重なデータを活用しきれないという結果にもなりかねません。
AIカメラなどのリテール・テクノロジーの活用は、「可能だから、やってみる」のではなく、「この課題を解決したいから、導入する」という、「目的ベース」であるべきです。
「目的ベース」は、最新のテクノロジーの導入に限った話ではなく、従来型の店頭販促を実施する際にも当てはまることです。
先日公開したコラム「販促の結果に振り回されていませんか?重要なのは目的設定と効果測定」では、様々な店頭販促の手法を紹介しましたが、どのような販促を実施するか(how、手段・手法)の前に、なぜ実施するのか(why、目的)を明確にすることの重要性について説明しているので、本コラムとあわせてお読みください。
コストなどの条件で設置できるカメラ台数が限られる場合、まずは、課題がありそうな売場などにカメラを設置し、試験的に運用してみることをおすすめします。
試験運用中に、回遊状況をどのように把握し、どのように活用するか、指針をある定めた上で、他の売場、他の店舗にも水平展開すればよいでしょう。
ショッパーの回遊状況を把握して、売場改善や売場づくりに活用したいと考えている方にとって、本コラムの内容が参考になれば幸いです。
- 三坂昇司「リテールテクノロジーを活用したリアル店舗活性化のための研究事例-実用的価値向上のための売場吸引力・購買転換力測定と情緒的価値の測定-」『流通情報』No.519、2016年3月、pp.29-40 ↩︎
- MD NEXT「トライアル最新店に見る スマートストアのファイナルアンサー」(2018年6月21日公開、2025年1月3日閲覧) ↩︎
- イオンリテール株式会社 ニュースリリース「“スマートな”買物体験を実現するAIシステムを順次拡大 『AIカメラ』が、おもてなしや、より良い売場づくりをサポート『AIカカク』で適切な価格を提示、食品ロスも削減」(2021年5月13日公開、2025年1月3日閲覧) ↩︎
- サツドラホールディングス 公式サイト「サツドラが描く小売の未来―ドラッグストア×AIで店舗のメディア化に向けた第一歩」(2025年1月3日閲覧) ↩︎
この記事を書いた人
鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表
東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。
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