2024.12.09

ショッパーの購買を喚起するために実施する店頭販促

ショッパーの購買を喚起するために実施する店頭販促

店頭販促は小売店舗において欠かせない活動です。小売業の方はもちろん、取引先のメーカーや卸売業の方も関わることが多い店頭販促ですが、その種類は様々で、実施したからと言って必ずしも効果があるとは限りません。また、どのように実施するか(how、手法)に注目するあまり、なぜ実施するのか(why、目的)という点が曖昧になってしまうという悩みをお持ちの方も少なくないと思います。そこで、この記事では、押さえておきたい店頭販促の目的・手法・課題について解説します。なお、スーパーマーケットの売場を念頭に置いた内容ですが、基本的な考え方は他の業態で店頭販促の業務に携わる方にも参考にしていただけるものになっています。

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目次

店頭販促の目的と活用
 - 店頭販促の目的
 - 店頭販促の種類
 - 店頭販促の効果
 ‐ 店頭販促のPDCAサイクル
店頭販促の手法
 - 価格主導型の店頭販促
 - 非価格主導型の店頭販促
 - 目的に応じた店頭販促の手法
店頭販促の課題とその克服
 ‐ 内的参照価格の低下
 ‐ ブランド・イメージの低下
 ‐ 長期的視点での評価
まとめ


店頭販促の目的と活用

業務で店頭販促に携わっている方は、主な手法や期待される効果などを理解されていると思います。

しかし、業務がルーティン化するにつれ、売上など数値目標の達成だけを目指してしまったり、目的が曖昧なまま何となく販促を実施する、といったこともあると思います。

そこで、こうした事態を避けるために、はじめに、店頭販促の目的や種類、効果などを確認しておきます。

店頭販促の目的

販売促進(以下、販促)はショッパーの購買行動に働きかける活動です。

中でも小売店頭で行われるものを店頭販促と呼びます。

店頭販促の目的を一言で表すと、「店頭でショッパーに対して刺激を与え、購買を促進すること」となります。

スーパーマーケットのように主に最寄品を販売する小売店舗において、ショッパーは慣性的な購買行動をとりがちです。

せっかく新商品を導入しても、それに気づかない、あるいは、気づいても興味を持たないショッパーが多いのが実情です。

そのようなショッパーに対して、様々な方法で刺激を与え、商品に興味を持ってもらい、購買につなげようという働きかけが店頭販促なのです。

個別の販促手法と、それに対応した目的については、後段で解説します。

店頭販促の種類

店頭販促は、ショッパーに対して割安感を与える「価格主導型」と、価値を訴求する「非価格主導型」に分類されます。

実際には、価格主導型と非価格主導型の店頭販促が同時に行われることが少なくありません。

たとえば、エンド陳列(非価格主導型)と値引き(価格主導型)が同時に行われるといったようなケースです。

ただし、目的に応じた販促手法を選択する上で、店頭販促によってショッパーに訴求するものが、割安感なのか価値なのかを把握しておくことは極めて重要です。

そのため、価格主導型、非価格主導型に分類して理解することをお勧めします。販促手法の細かな分類は後掲します。

店頭販促の効果

あるカテゴリーで店頭販促を実施した場合に得られる効果には、「需要の増加」、「需要の先食い」、「購買のスイッチ」があります。

需要の増加

店頭販促を実施した結果、普段、その店舗で当該カテゴリーを購買しないショッパーが新たに購買した場合、新規需要を獲得したことになります。

また、店頭販促によって普段からカテゴリーを購買しているショッパーが購買量を増やすこともあります。

どちらの場合も、店頭販促によって需要の増加という効果を生んでいます。

需要の先食い

一方、値引き販売などにより、ショッパーが予定していたよりも早いタイミングで購買したり、予定より多くの量を購買する場合は、需要の先食いと言えます。

値引きをしなくても時期がくれば購買してもらえた可能性がありますが、競合店舗との需要の奪い合いが激しい場合などは、他店に先んじて店頭販促を行うことで、将来の需要を確保する意味合いがあります。

購買のスイッチ

小売業の立場では、極論を言えば、カテゴリーの売上が増加するのであれば、どのブランドが売れても良いものです。

一方、メーカーにとっては、店頭販促を通じてライバルのブランドからのスイッチを促すことは重要課題です。

メーカー間、ブランド間でのシェア争いという側面の他、将来的にその小売業の当該カテゴリーにおいて主導権を握ることにもつながるからです。

なお、店頭販促によってカテゴリー間でのスイッチが生じることもあります。夕食のカップ麺を買おうと来店したショッパーが、タイムセールされていた半額の弁当を購買するようなケースです。

店頭販促のPDCAサイクル

店頭販促を売場やカテゴリーの課題を解決する手段と捉えると、課題の種類と、その解決策として適した販促手法を選択して、実施することが求められます。

さらに、1回限りの企画としてではなく、PDCAサイクルを運用しながら、過去の内容を踏まえて次期の企画を立案、実行し、その結果を将来の販促に生かしていく、というように、前の結果を次に反映させて改善していくことが理想的な店頭販促のマネジメントです。

どうしても都度の販促結果に一喜一憂しがちですが、結果を単に「成功か失敗か」と見るのではなく、成果指標を細かくモニタリングして、仮に期待した売上金額に達しなかった場合でも、例えば「1人当たり購買単価」は改善した、などと評価することで、次の企画にも生かせるのです。

店頭販促の手法

ここでは、主な店頭販促の手法を、価格主導型と非価格主導型に分けて紹介します。

価格主導型の店頭販促

値引き、特売

期間限定で定番価格よりも低い価格で販売する店頭販促を値引きや特売と呼びます。

最もポピュラーな店頭販促と言えるでしょう。

ショッパーに、「いつもの価格(定番価格)よりも安い」、「今買えば得をする」、「今買わないと損をする」と感じてもらうことで購買を促します。

値引きは、定番売場で行う場合の他、エンドで行ったり、チラシ掲載と併せて行われるなど、他の販促との同時に実施されることが多い手法です。

なお、頻繁な値引きの実施により、ショッパーが特売価格を覚えてしまい、定番価格で購買されなくなるリスクがあるので注意が必要です。

また、カテゴリーやブランドによって値引きによる売上点数増加への効果には差があります。同じ値引き率に対して、売上点数の増加が大きい場合は、小さい場合よりも「価格弾力性」が大きいと言い、相対的に値引きの効果が高いと言えます。

バンドル販売

「1個で150円」の商品を「2個で280円」で販売するというように、商品を複数購買した場合に1個当たりの価格を下げる手法で、ショッパー1人当たり購買点数の増加を促します。

1個当たりの値引き金額がわかりづらいため、ショッパーのその商品に対する値ごろ感(内的参照価格)を下げにくいという特徴があります。

なお、内的参照価格はショッパーの経験により形成されるものですが、実際の価格が内的参照価格を上回っていると、ショッパーは「高い」と感じ、購買を控えてしまいます。

そのため、内的参照価格を下げにくいバンドル販売は、優れた店頭販促手法ということができます。

増量パック

メーカーが期間限定で自社商品の値段を変えずに容量を増やす手法で、単位当たり価格(ユニット・プライス)を下げ、ショッパーに割安感を与えて購買を促します。

この手法もショッパーの内的参照価格を下げにくいと言えます。

ポイント販促

購買金額に応じたポイントを、小売業が発行する、あるいは、共通ポイントの、カードやアプリ付与する手法です。

期間限定で特定の商品を購買したショッパーにのみポイントを付与するものや、月に1回のポイント〇倍デーに全ての商品を対象に大きなポイントを付与するものなど、様々なバリエーションがあります。

最近では効率的にポイントを集めて得をすることを「ポイ活」(ポイント活動の略)と呼び、一般的になっています。

貯めたポイントは(共通ポイントは他社の場合も含みますが)、当該小売業での買物時に使われるため、ポイント販促は将来の来店にもつながる利点があります。

また、内的参照価格を下げにくい点も長所です。

非価格主導型の店頭販促

特別陳列(エンド陳列、島陳列)

多くのショッパーが通過する主導線に面しているゴンドラ什器の端「エンド」は、定番売場と比べて視認される機会が多い場所です。

同様に、主導線など幅の広い通路に設置された「島売場」も視認されやすい売場です。

定番売場よりも多くのショッパーに視認されるエンドや島売場に陳列することを特別陳列と呼び、それぞれ、エンド陳列、島陳列と呼びます。

通常は定番売場で販売される商品の陳列を特別な売場で行う販促で、非価格主導型ですが、実際には値引きと組み合わせることが多いです。

また、POPを設置したり、クロスMDを実施するなど、他の非価格主導型の手法と組み合わせるケースもあります。

エンドは、季節販促や新商品の大々的な展開がよく行われる売場でもあり、大型POPや華やかな装飾が施されることも多いです。

小売業の店頭ではメーカー各社がしのぎを削ってエンド陳列に力を入れており、大きな効果が期待できるのですが、実施に要する費用が大きく、商品の在庫管理や販促物の製造や管理も煩雑になりやすいという課題もあります。

POP、デジタルサイネージ

POPは、Point of Purchase の略で、購買時点を意味します。

売場内の商品付近に設置した広告で、購買時点のショッパーに働きかける手法です。定番売場にもエンド売場にも設置されます。

記載されるメッセージ内容は様々で、価値を訴求するものも、価格を訴求するものもあります。また、手書きのユニークな字体で、企業のアイデンティティを感じさせるPOPもあります。

店頭に設置したディスプレイ、デジタルサイネージに動画を流し、売場前を通過するショッパーに対して情報を提供する手法もすっかり定着しました。

デジタルサイネージは、必ずしも商品の購買をダイレクトに促すものだけではなく、商品の特徴説明など、ストーリーを伝えるようなものも見られます。

クロスMD

複数のカテゴリーの商品の同時陳列をクロスMD(マーチャンダイジング)と呼びます。

エンドや島売場で実施されることが多く、スーパーマーケットであれば、生鮮売場に関連する加工食品を近接させて陳列するものがよく見られます。

例えば、精肉売場に焼き肉のたれ、野菜売場にドレッシングといった組み合わせは多くの店舗で実施されているクロスMDです。

夏になればエンドで素麺とめんつゆのクロスMDが実施されます。

食品以外でも、例えば、歯ブラシと歯みがき、マウスウォッシュ、歯間ブラシのクロスMDなどはドラッグストアだけでなくスーパーマーケットでも実施する店舗があります。

目的に応じた店頭販促の手法

以上、店頭販促の手法の主なものを紹介しました。

今後も新しい手法が登場することでしょう。

店頭販促を実施する上で重要なことは、目的が先にあり、その目的に合った手法を選択して、実施し、成果を評価して、次の店頭販促の企画につなげていく、ということです。

ある目的を設定した場合、その達成のために選びうる手法は複数あることが一般的です。

目的に合うことはもちろん、カテゴリーの特徴や、ショッパーへの影響なども考慮して適した手法を選ぶようにしましょう。

図 1 店頭販促の目的と対応する販促の手法
出典:公益財団法人流通経済研究所編『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』を元に一部修正

店頭販促の課題とその克服

店頭販促の中でも、値引きは実施しやすく、定番価格での販売時と比べて大きな売上が期待できるため、頻繁に実施されます。

目に見える成果につながる手法ですが、安易な実施は、長期的に見て、小売業、メーカー、あるいは卸売業にとってデメリットになりえます。

ここでは、店頭販促にまつわる課題と、その克服について解説します。

内的参照価格の低下

ショッパーがその商品に対して抱いている値ごろ感が内的参照価格です。

頻繁な値引きの実施により、ショッパーが特売価格を記憶すると、内的参照価格は低下してしまい、定番価格や小幅の値引きでは購買されなくなってしまいます。

そうなると、さらに大胆な値引きをすることになりますが、ますます内的参照価格が低下してしまい、利益率の低下につながります。

そのため、内的参照価格を下げないための工夫が必要になります。

値引きへの過度な依存は避け、非価格主導型の販促でショッパーに対して価値を訴求することで購買を喚起したり、価格主導型であっても、バンドル販売を行うとよいでしょう。

ブランド・イメージの低下

メーカーにとっては自社商品を頻繁に値引きしていると、ショッパーに「安物」と認識され、ブランド・イメージが低下してしまいます。

メーカーにとっては大切な資産であるブランドの価値を毀損しないためにも、過度な値引きは控えるべきです。

メーカーの立場としては、高価格帯の商品はブランド・イメージが低下しないように値引きをなるべく実施せず、その代わりに、ショッパーの購買点数の増加に貢献するように低価格帯の商品をラインナップする、というような商品展開を小売業に対して提案することも重要になります。

長期的視点での評価

店頭販促は、短期的な成果を評価することが多いですが、注意が必要です。

上で触れたように、店頭販促の実施で発生した需要が、「需要の先食い」である可能性もあります。

本来であれば将来発生したはずの需要を、販促の実施によって先行して獲得したせいで、後に需要が発生しないこともありえます。

また、店頭販促の実施時は、欠品による機会ロスを防ぐために在庫を潤沢に用意することが多いですが、販促期間終了後に在庫過多になることもあります。

先に触れたように、値引きを繰り返すことで、徐々にショッパーの内的参照価格が低下し、ブランド・イメージが低下することもあります。

店頭販促で短期的に大きな成果を求めるよりも、PDCAサイクルを回して、小売業とメーカー、あるいは卸売業が、協働で店頭販促を少しずつ改善しながら、長期に渡ってショッパーに支持される売場づくりをしていくことが求められます。

まとめ

国内人口が減少し、小売業同士の競争は業態を超えて激化しています。

こうした状況にある小売業が、継続的にショッパーの支持を得るためには、取引先のメーカーや卸売業と共に効果的な店頭販促を実施することが欠かせません。

店頭販促を手がけている方は、本稿で紹介した店頭販促に関する基本的な事項を踏まえつつ、ショッパーに刺激を与えて購買を喚起するような施策を実施しましょう。

この記事を書いた人

鈴木 雄高 氏
市川マーケティング研究所 代表

東京理科大学大学院理工学研究科修士課程修了。流通・マーケティング専門のシンクタンクで約15年間、ショッパーの購買行動や小売業の戦略などを研究。現在は、コンサルティング、調査、執筆、研修などを行っている。著書に『インストア・マーチャンダイジング (第2版)』(共著)がある。

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