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2021.09.02
Amazon Goの衝撃とGo Insightの未来を語るスペシャル対談(前編) ~IoT×AIで進化する顧客行動データの分析~
店舗におけるICT化のプロ 郡司 昇氏と、株式会社ダイエー デジタル戦略室 デジタル推進部リーダー 吉岡 素成氏が、話題のAmazon Go1号店を訪れた際に受けた衝撃のほか、ウォークスルーとモバイルオーダーの実証実験や、コニカミノルタマーケティングサービス(以下、コニカミノルタ)が提供するGo Insight ( 顧客行動解析サービス)の効果について、前編・後編に分けてお届けする。
ゲスト
株式会社ダイエー デジタル戦略室 デジタル推進部リーダー 吉岡 素成氏
進行
店舗のICT活用研究所代表 郡司 昇氏
Amazon Goシアトル1号店で体験した衝撃
郡司
今回の対談は、大きく分けて4つテーマを挙げさせてもらいました。
1つ目が、去年吉岡さんともご一緒に“Amazon Go”のシアトル1号店に行きましたので、Amazon Goを体験したときに衝撃を受けた話。
そのあと、私は今年になってコニカミノルタの方と一緒にシアトルの2号店・3号店及びサンフランシスコの2店舗に行きましたので、どう進化したかの報告と、吉岡さんの感想をお伺いしたいです。
2つ目が、ダイエーとクラスメソッド株式会社がコラボして、昭和女子大で展開している無人店舗の目的に関してお伺いしたいです。
3つ目が、コニカミノルタの“Go Insight”というサービスを利用して、ダイエーの店頭でいろいろなメーカーと組んで仮説と検証をしたのですけれど、これに関してどう思うかという話ですね。
4つ目が、ダイエーの実験店として、東五反田店でGo Insightを活用してさまざまな取り組みをやっておられますので、この狙いなんかについてお伺いしたいと思います。
郡司
一番目のAmazon Goの話なんですけど、最初にどう感じました?
吉岡
3つ感じたんですね。1つはレジが不要という空間がどういうものなのかというところ。一番仮説を置いていたんですが、私たちは長年レジありきで、売り場・レイアウト・オペレーションをしてきました。それがない空間を見られたというのがすごいインパクトでしたね。
2つ目に、カメラとかセンサーとかのデバイスが目立たないので、すごく買い物自体が楽しい。あまり見られているという感じがなかった。
3つ目に、買い物体験のあと、Amazonの人とデバイスの話をしたんですね。
我々はどうしても店舗を作るとなると、償却資産とか金利相当分が重く乗るんですが、わりとデバイスが安いもので、仕組みで組み合わせることができる。この3つが印象に残っていますね。
郡司
最後のところで言うと、わりと現実味あるなって、実際に。
吉岡
なんかこれが、おそらくリテーラーの姿を変えるんじゃないかなって予感を感じましたよね。
郡司
そうですね。私も同じことを思っていて。
やっぱり自分も店頭に立っていたし、レジだけじゃなくて店舗設計の絡みという部分もあるので、そうなると店って、やっぱり最後にレジで買い物してもらってゴールなんですよね。
ゴールをどこに置くか。入口からゴールまでいかに店舗の中を歩いてもらうかってことを一生懸命考えてレイアウトするわけですけど、「それがなくなるとこうなるんだ」っていう驚きと、もう1つはやっぱり接客。
普通、通路内で店員と会わなければ、接客の機会って店内では起こりません。
レジは絶対に接客がある場所で、“レジが接客の最重要起点”という考えがどうしても体に染みついていて、レジがないって聞くと買い物した気にならないんじゃないか?みたいな部分が自分の中にはあったんですよね。
最初にAmazon Goで買い物をして出たとき、気持ち悪くてしょうがない。
最後に支払いをしないで、モノだけ持って店舗を出てそれで終わりって言われても、「え?」「これで本当に良いの?」みたいな。「あとから警備員に追いかけられない?」みたいなこと思うじゃないですか。3回目の買い物くらいからようやく慣れてきて、「これは絶対ないほうが良いな」って思った。
レジで接客を受けて、マニュアルの「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」を言われるけど、買い物かごに向かって言っているよねっていう作業と感じてしまう接客が多いじゃないですか、実際は。
そういうのがなくて、何にも手間がかからないし、レジが並んでるとか余計なこと考えずに、欲しいものを買うのに集中して、それで終わりだよねっていうのはすごい良いなって思いましたね。
吉岡
レジってそれ自体の重さと、レイアウト上にあることでやっぱり存在する要件がある。お客様にしたら、待つ時間をどうするかということと、レジでの待ち時間にモノを見られるということについて、ストレスを感じられる方も多くなってきた。レジありきで何十年間とリテーラーが進んできたんだけど、これがないことでいろいろなものが生まれるな、ということを思ったんです。
ただ、“無人”ということはあまり強くは出したくない。
人の削減ということだけで捉えたくないなと。あまりネガティブには捉えずに、やっぱり楽しい空間創りをどうするか、そこを狙いたかった。
郡司
実際、社内の稟議をもらうときとか、実験店もそうだと思うんですけど、実際に行って体験してみなきゃ本質はなかなかわからないじゃないですか。説明してもなかなかわかってもらえない部分もあると思うんですよね。そのあたりってどうやって口説いて、昭和女子大での実験店にこぎつけたのですか?
吉岡
ダイエーは、わりと意思決定を早くしてもらえる会社でもあるんです。
まず、Amazon Goでの体験をプレゼンをしたんですね。こういう空間のものを現実化したいなと。同時並行していろいろなスタートアップ企業とやっていた取り組み等々を並べて。
こういうものを一度店舗で展開することも大事なんですが、クローズされた大学の構内で、そういうものを具現化してみたいと。教授たちにも賛同してもらえたので、それで展開することになった。
「まずはやってみよう」というところですよね。「トライ&エラーをやっていこう」という社風は非常に強いですよね。そこにピタッとはまったということですよね。
スマートストアの実験店を昭和女子大と共同で
郡司
クラスメソッドとの取り組みの話なんですけど。
これって、やっぱり吉岡さんが昭和女子大に行って、Amazon Goの話をして「じゃあやりましょう」みたいな話になったと。ということは、クラスメソッドに「こういうのやりたいんだけど。協力してくれないか」って依頼をかけるわけですよね。
吉岡
そうなんですよ。「日本版Amazon Goを作りたい」というのは、各リテーラーも同じ思いだし、クラスメソッドは自身でDevelopers.IO CAFE(デベロッパーズ・アイオー・カフェ)(※1)を作っていた。「だったらこれを同じ構想で、一度昭和女子大でやってみないか」っていう話を彼として、期間限定だけどまずはやってみようということで合意をしました。
郡司
それってやっぱり期間限定のものだから、お互い手弁当(採算度外視の費用持ち出し実験)だと思うんですよ。当然あそこで売れるお菓子の種類で採算は合わないので。それはやっぱり実験してデータを取ります、反応を見ます、みたいなスタートだったんですか?
吉岡
これもやってみないとわからない。大学は授業の一環としてやってくれた。オペレーションをぜひ大学の学生にやらせてみたい。ダイエーは商品を供給をして、全体のプロデュースをしていく。
郡司
オペレーションは大学生の方がやるんですか?
吉岡
学生さんです。だから、お客様のアプリ登録・誘導・品出し、もちろん補充等々含めて、あとの売上登録へつないでいくフローまで学生さんにやってもらいました。その実体験をさせるというのが、大学のニーズでもあったんですね。
郡司
なるほど。実際にオペレーションを体験した学生さんの感想はいかがでした?
吉岡
やはりね、あの空間を楽しむというのは、学生さんたちも一番面白さを感じたところですね。買い物自体を楽しむっていうのを彼女たちから学ぶことができました。
郡司
問題とか起きました?やってみて。
吉岡
わりと1・2年生の方も興味を持つんですが、クレジットカードに対する最初の登録で問題があったので、これについてはプリペイドとかデビットとかそのほかの決済手段を増やして、という声が多かったのは1つ。
郡司
世代的にはLINE payとかが、わりと簡単につなげそうな気がしますよね。
吉岡
そうなんですよね。そういう意味では彼女たちが持っているSNSからも流れ、そこからやはりペイメントへつないでいくところっていうのはヒントがありましたね。
2つ目が、今回は安全を優先して1人だけの入場にしたんですけど、実際は複数人登録ができるようになりましたので、複数人で入りたいという要望でしたね。
3つ目は、売り場の中でスマホを見ながら、自分が今何を買ったかという履歴を見たいと。
実際は店舗を出てからアカウントが表示されるので、今はまだ見られないんですよね。ただ今回面白かったのが、重量センサーと(商品の)上を通すセンサーを付けてやっているんですけど、重量センサーと連携して、サイネージに接触した商品が表示される。あれはすごく好評でしたね。
郡司
それはなぜ好評なんですか?
吉岡
自分が商品を取ったっていうのを確認できるということと、ビジュアルがすごく良かったんですね。菓子メーカーが非常に良いものを用意してくれたので。
たとえばレコメンドするとか、ワンツーワンで行くと何かができるっていうヒントも逆に感じましたよね。
郡司
レコメンドもそうなんですけど、取った商品の情報をもっと詳しく見られるっていうカテゴリもあるかなと。まあ、やっているのはお菓子とかガムなので今回はそこまで必要ないと思うんですけど。東五反田店のような普通のスーパーで、たとえばワイン1本取ったときにそのワインの産地がこうで、こういう料理に合いますよって情報がぱっと出ると良いですよね。
吉岡
まさしく、そこをあとで話そうと思ったんですが、EDGE(※2)との組み合わせですよね。今回は昭和女子大の中にプロジェクタを内蔵した什器を入れて、プライスカードと静止画を交互で出したんですけど。今回東五反田店でやってみたいのはそこですね。
ワインの売り場にもサイネージを出していくので、そこで実際手に取ったワインのうんちくであるとか、合う惣菜とかを出していく。それから健康系ですよね。ヘルス&ウェルネス系で気になっていることを文字表示できるっていうのをやっていきたい。
これもあとで話そうと思ったんですが、“SIRU+(シルタス)”(※3)という我々が導入したID-POSとAOSを連携したアプリ。このあたりの連携っていうのが、次につながってくるなっていう予感はしました。
郡司
昭和女子大の実験店は期間限定でやったんですけど、次はどんな感じでやるんですか?
吉岡
実は秋に、それもそんなに遅くない時期に“第二期計画”を予定しています。
品揃えについては、お菓子から大きく拡大しようと思っています。それからモバイルオーダーを組み合わせたいなと。
たとえば、一限目が終わったときに、学生さんがお昼のお弁当を注文して受け取れる。それと関連して、お茶をウォークスルーで持ち帰る。すべてキャッシュレス・レジレスでそのまま食べてもらう。
郡司
昭和女子大の実験店は近くにダイエーもありますね。
吉岡
そうなんですね。そういう意味で、うまくいけば実験店は非在庫で、でも実際のところ実験店で商品を受け取るという楽しさと、会社として在庫を持たなくてもできるということがうまくマッチングできれば面白いだろうなと。まだ構想ではありますけど。
郡司
昭和女子大ってけっこう敷地が広くて。大学を出てコンビニに行くとか、ダイエーに行くとけっこうな時間を消費してしまうので、それが校内で注文できれば欠品なく受け取れると。「人気の焼きそばパンも間違いなく買えます」と。パシリレス(笑)
吉岡
そうなんですね。思ったより、学食というか食事環境があまり良くなくて。食事をするのに券売機で長く待つこともあるので、そのソリューションの解決にもつなげられたら良いなと思っているんですよね。
わりとダイエーは大学に隣接している店舗も多いので、今後はモバイルオーダーも組み合わせとしてできるんではないかと思っています。
郡司
大学でなくても、一定規模以上の従業員がいる会社にモバイルオーダーを設置するとか。パッケージとしてそれが機能するようになるのもありですよね。
モバイルオーダーでデリバリーするとなったときに、一拠点あたりの数が少ないとなかなか収益性が出ません。配送コストを賄えないっていうのが課題なので。一拠点に10とか20弁当の注文が入って、そこにまとめて配達して行くとなると、当然コストもペイできると。
吉岡
この発想がどう出たかって言うと、郡司さんとAmazon Goにいるとき、Amazon Goで商品を買いながら、モバイルオーダーでスタバやマクドナルドでコーヒーとハンバーガーを注文しましたよね。あれを一緒にやってみたいなっていうところから、昭和女子大の実験店につながった。あのときの感動がやっぱり大きかったですね。
ウォークスルーとモバイルオーダーって非常に近しい、うまく、良い組み合わせだなと感じましたよね。
郡司
ありましたねぇ。Amazon Goにない商品をAmazon Goでオーダーしておいて、取りに行くとすぐに受け取れる。そういうのありだと思うんですよ。良い悪いはともかく店舗が他店のオーダー場所にもなる。
たとえばアメリカの食品スーパーとかだと、“カーブサイド・ピックアップ”といって、モバイルで注文しておいて、あとから食材を取りに行くんですけど、「このキャベツはいらない」とかその場で返品ができるので、実物を見てから買う食材を決められる。
カーブサイド・ピックアップで注文するものは何でも良いんですよ。人によるんですけど、「卵とか醤油はなんでもいいや」「ただ、トマトだけは丸くて赤いのじゃないとダメなんだ」とか人それぞれにこだわりがある。そういうこだわりの食材だけは、店頭で買ってピックアップしていくって組み合わせで使う人ってすごく多くって。
カーブサイドで受け取るだけって人はやっぱり少ないんですね。あくまでもそれプラス、ピックアップするものは実店舗で買う。たとえばデザートはその場でピックアップして、それ以外の弁当みたいなものに関しては注文しておくって使い方はやっぱり良いですよね。
吉岡
もうひとつ面白いなと思ったのは、僕はネットスーパーに関わってきたとき、ネットスーパーでレタスを注文いただいたらできるだけ良いレタスを売り場の目利きで選んで差し上げる。ネットスーパーで頼むと良いレタスが手に入るというのは、逆に言うとピッキングからデリバリーのところの売り場の強みですよね、目利きをするってところと。
それから一方で、そのほかの商品は自分で買うという組み合わせ。そのあたりがわりとアナログとデジタルが融合して、お客様のニーズにはまっていくというのは、いま郡司さんが言われたような、カーブサイド・ピックアップと、お客様のそれぞれの嗜好があるので組み合わせだろうなと。
郡司
それもありそうですね。
吉岡
ええ。ぜひお客様の行動から、そういう部分を認知して作っていけたらなと思っていますね。
郡司
そうですね。モバイルオーダーと店頭でのAmazon Go的なピックアップを組み合わせることで何が良いかって言うと、「同じIDを使って事前に注文しているのはこれだけありますよ。そこで選んでいるのはこれです」っていうのが見えてくるので、そうすると、ピックアップに向くものと、オーダーが入ったら取り寄せるものと、区分けも多分商品が見えてくると思うんですよね、データが溜まってくると。けっこう面白い取り組みだなと思いますよね。
進化するAmazon Goとスマートストアの理想的な広さ
郡司
昨年、吉岡さんや横田さん(クラスメソッド社長)と一緒にAmazon Goに行った後、私は今年もう1回コニカミノルタの人たちとAmazon Goに行ってきました。
何が変わったかと言うと、1つ目はコストが下がっていること。
1号店は90センチの棚の裏に16個のカメラが付いていて、手が入ったかどうかをそれで確認していました。さまざまな実験から推測すると商品の画像特定まではしてなかったです。それがなくなっていました。
Amazon Goの各店舗で4,000台/店のカメラが要らなくなってくるのは画期的なコスト削減だと思います。要は重量センサーと天井のカメラ(ToF+RGB)だけで顧客行動が取れる状況になった。
2つ目が、市販品のカメラから、Amazon開発のオリジナルカメラに変わった。
RGBカメラとToFセンサーとを組み合わせた1台のカメラになっていました。台数自体はそんなに変わらないんですけど。
専用品を作るというのはどういうことかって言うと、Amazon Go型店舗をやるのに最も最適な仕組みを作れるというのが1つ、もう1つは製造ロットがあるので、何十店舗かは少なくとも自分たちでやるつもりなんだなっていう本気が見えたっていうのがあって。
テストを超える一歩ということで、昨年吉岡さんと一緒に行ったシアトル1号店と比べて、それが一番大きくて。
3つ目は、商品の進化ですね。どういうことかと言うと、去年5月にAmazon Goへ行ったときは、たとえばターキーサンドの上のほうにQRコードとは違うんだけど独自の記号と“268番”みたいな番号が振ってあるわけですよ。(※4)
そうすると、店員も「268番3個補充して」みたいな指示が簡単になる。番号で確認するから商品を間違えないですよね。
もう1つは天井カメラから特定しやすい。その肉がチキンなのかターキーなのかという中身の特定はカメラでは難しいですけど、それが記号を付けるとわかりやすいのかと思い、「AI時代のパッケージはこうなるんだ」と思った。AI時代は、商品もAIがセンシングしやすいようなパッケージに変わっていくんだなと思ったんですね。
今年見たら、それがなくなっていたんです。AIの精度が高まったのでそういう補助が要らなくなった。
もう1つは、その手の品揃えがものすごく増えてたんですね。シアトル2号店3号店、サンフランシスコの新店に行くと、パッケージに鮮やかなオレンジ・ピンク・緑とか添えられていて、オリジナル商品の種類もサンフランシスコはシアトル1号店の2倍~3倍くらい並んでいるような状態。
そうすると、たとえば新しい商品を作ったときに、緑と青のパッケージと、ゴシック体と明朝体のフォントを用意してABテストができるじゃないですか。売れた結果もそうだし、その商品に関心を持った人がどれだけいたよねという計測ができる。「この商品はこのパッケージが一番興味関心をひくよね」もしくは「コンバージョンレートは上がるよね」みたいな。要は、楽しさや利便性だけじゃなくて、商品パッケージは何が響くかみたいなところに使いだした、すごく大きな進化だったなと思っていますね。
あとはマーケティングの観点で言うと、シアトルの店舗は確認できなかったんですけど、サンフランシスコの店舗では従業員の業務エリアにもセンサーが付いていて、従業員の動きもセンシングできる。効率的に働く従業員のモデルケースを学べるし、嫌な言い方をすると、「こいつはよく働くやつだな」「こいつはちょっと時給下げてもいいな」みたいなのが見えるわけですよ。
吉岡
先ほど言われた、重量センサー。それからAWSで画像登録を行うSageMaker(セージメーカー)も含めたRGBのカメラの画像認識とToF(※5)での顧客行動把握。Amazon Goのトータルのなかでいくと、この3つは商品ジャンルごとの組み合わせなのか、ある程度全体のなかで、ウェイト的にどのくらいの配分になっているんですかね?3つ揃わないとだめなんですかね?
郡司
3つとも全部ですね。1号店で言うと、重量センサーがない棚も一部あったんですけど、今回見た2号店や3号店は、重量センサーがほとんど全部入っていて、冷ケースにも付いていたんですね。冷ケースで重量センサーが入れられない部分は、冷ケースの入口にRGB+ToFカメラを付けて、より商品の近いところからセンシングするみたいな。重量で確定できない部分は、よりカメラ型センサーを増やすみたいなことやってましたね。重量センサーでオンオフした方がコストも安いというのが大きいと思うので、組み合わせですよね。
吉岡
郡司さんが感じた印象で良いんですけど、ウォークスルー、Amazon Go的な決済が成り立つ適正坪数はどんな感じで見られてます?
郡司
私が思うのは坪数ではなくて、坪単価だと思っています。坪あたり売上・粗利がどれだけ取れるかなって。
広くしすぎると面積あたりの売上が下がって、そこに投資できるシステム的なコストも当然抑制されてくるので。
逆に狭くても売上が上がるところで、それをより高める技術があるのであれば、当然投資できるっていう部分はあると思うんですね。
なので、基本的には狭いほうがもちろん効率が良いわけなんですけど、狭きゃ良いかと言うと、狭いけど誰も来ない場所だとそもそも来店してもらえないし。そこそこの広さでも、それ以上の客数があれば機能するのかなと。
たとえばAmazon Goの1号店だと最大55人入れるAI精度と店舗の集客力。私も確認したAmazon Goを真似たベンチャーが作った仕組みのほとんどは技術的に1人か2人しか入れないのに、あの当時で55人入れるってすごいですよね。55人入れる店舗で、実際55人までいったじゃないですか、一緒に行ったときに。で、入口で止められたじゃないですか。
あの60坪くらいの店舗で55人って、そこそこ混んでる電車くらいの混みかたじゃないですか。あの状況で客単価が5%上がるのだったら、十分投資に値するんじゃないかなと。
吉岡
私たちも相乗積で、粗利と商品回転率と粗利構造を見て、そこにさきほど言った無人ではなくてある程度人を配置した全体のオペレーションコストと粗利とのバランスがあるという意味でいまお聞きしたら、大体、立地。それから滞在する客数、送客の客数である程度相関関係が出てきそうな感じだってことですね。
郡司
そうですね。それもあると思います。
逆に投資できないような場所って、IT化しなくても「店としてどうなの?」って話にもなっちゃうと思うですよ。とはいえ、何もやらないローコストな店舗ももちろんあるので。ローコスト型の店舗にいくのか、IT活用してより価値を高めて、売上・粗利を上げていきましょうという店舗になるのか、二極分化していくのかなってところですよね。
いわゆるローコスト型であれば、そんなに回転率とか気にしないで、期限設定のない商品を中心に補充頻度を最低限にして並べときゃ良いって店舗も実際成り立つわけじゃないですか。
それはどっちもなのかなと。だから郊外の巨大ホームセンターみたいなところにはAmazon Go的な仕組みはけっこうきついのかなって思います。
トライアルの新宮店みたいに、「めちゃめちゃ広いんだけどお客様来ます」ってところはあると思いますね、広くても。でも「広くても1日の売上が50万しかありません」みたいな店舗はちょっときついかなって。
吉岡
今回昭和女子大の実験店をやったときも、そこの相関はやっぱり客数と粗利高でした。今回品揃えの幅を拡大するところでの取り扱い商品を含めて、ぜひそのあたりの答えを出していけたらと思っているんですよね。
Go Insightを活用したメーカー事例
郡司
では3つ目。ダイエーでGo Insightってなんでやったんでしたっけ?
吉岡
郡司さんに紹介してもらったからですよ。(笑)コニカミノルタのオフィスに連れてきてもらって。
郡司
あぁ、そうでした(笑)。僕もお手伝いしているコニカミノルタのGo Insightという仕組みで、天井にカメラを付けて棚前のお客様の行動を分析することで、売り場と商品の改善を図りましょうという仕組みなわけですけど、ある意味Amazon Goの決済じゃない部分。Amazon Goも当然IDごとのお客様の行動はデータで取れているので、今後やってくると思われるところですけど。
最初にGo Insightを導入したメーカーのニーズは、店頭の販促物効果検証でした。
店頭の芳香剤とか柔軟剤とか、においがわからない商品に対してテスターを置くじゃないですか。置くのは良いんだけど、置くことで値札が見えないなど売り場が乱れたりとか、ほかの商品とのバランスが取れなくて。「これどうなの?」って話は小売りのなかでも出ているし、メーカーとしても、「それだけのコストをかけて意味あるの?」みたいな話もあって、そういう検証をしたかった。
これはメーカーのニーズでもあり、小売り側のニーズでもあります。効果の有無がわかれば、Win-Winでより効果的な仮説を作って、取り組める。
それから棚割ですよね。やっぱり。
吉岡
今回一番Go Insightのダッシュボードを見て感動したのは離脱率ですね。
どうしても我々はPOSデータでしか取れなかった。自分もECに関わってきて、Web上での離脱率は体験してきたわけですが、これをカメラで撮れるということは、“お客様が実際に商品と取ってやめた”、”AブランドからBブランドに変えた”という動態的なデータと私たちが持つID-POSの静態データを組み合わせてとんでもない化学反応が出るんじゃないかというのは、Go Insightに出会ったときの最初の感想ですね。
郡司
POSだけ見ていると、たとえば売れ筋1位商品が週に100個売れてます、2番目が週に70個です、3番目が週に50個ですとなると、「じゃあ100:70:50で在庫量を決めよう」みたいな、ベース量を決めようという話になるんだけど、実際にGo Insightでデータを見てみると、商品を触っている人は実は50個しかない3番目の商品が多いんだよねって場合があるわけですよ。
そうすると、「なぜ触られるだけの魅力があるのか?」って話の仮説が作れると思う。もう1つは触ってくれているのに買ってくれてないっていう、コンバージョンレートが低いっていう問題もあるんじゃないかな。そうすると値段に問題があるのか、商品自体に問題があるのか、何かきっかけをつけてやると売れるのか、みたいな仮説が成り立ちますよね。
吉岡
それともうひとつ感動したのが、ダッシュボードで我々が“ゴールデンライン”って呼んでいる、お客様から一番目が届きやすいところに一番売れ筋が集まるって思ったところにかなりバラつきが出たというのが、すごく見ていて面白かったですね。
どうしても商品の形状や重さという物理的な要素で棚割が決まっていく。
郡司
売れ行き関係なく、大きくて重い商品は一番下に置くんですよね、大抵。
吉岡
それと、「棚割とはこうあるべきだ」といった慣習が打ち破られていくところ。棚割とダッシュボードとの色の相関を見たときに面白さを感じた。
これはバイヤーと共有していっても同じ意識ですね。
郡司
なるほど、そうですね。小売りの人間からすると、一番下って大きくて重い商品、洗剤の大きいのとかお米とかを置きがちなんですよね。下から2番目はそれに関連したあんまり売れないだろうみたいな商品が並んだりするんだけど、意外とそういうものが売れたりする場合もあるんですよね。
吉岡
それから、今回コニカミノルタの方に、どのくらいの大きさまでセンシングができるのか、というところで、ある日常用品メーカーのかなり小さい商品をお願いしたときに、それが捉えられた。それもちゃんとお客様の動向を捉えられたっていう意味では、大きさとか軽さといったところで除外するのではなくて、網羅性があるだろうなって。
郡司
それってどれくらいの大きさなんですか?
吉岡
歯磨き粉です。
郡司
歯ブラシはきつい?
吉岡
そう。次にどこまでできるかっていうのが、フック什器に掛けるものとか、形状が冷ケースに入ったものとか。
できるだけ網羅していくっていうことになると、生鮮品だとかいろいろなものはこれからチャレンジが出てくると思うんですが、小さいサイズまで捉えられるようになってきたんで、これはコニカミノルタにこれからどんどん期待する範囲ですよね。温度帯、フック什器、それからかなり小さいもののセンシング。
郡司
確かにそうですよね。
吉岡
これからどんどん、デバイスや技術が良くなっていくところはあるんじゃないかなって思いますよね。
郡司
でも歯磨き粉まで取れれば、相当なものじゃないですかね。サンフランシスコや上海で私が体験した様々なAIベンチャー企業の仕組みはその数倍大きい商品か、同じものを3列くらい並べないと認識できないレベルでした。TVやWebで華々しく取り上げられているけど、Amazon以外は実際はそこまで精度が高くないというのが現実かなと思います。
吉岡
それと自分たち今回の狙いとして、バイヤー含め、取引先との狙いからいくと大きく3つくらいの目的が出るんではないかなと。
1つは既存商品の活性化。
2つ目が新製品が出たときのお客様の行動がどうなのか、インパクトはどうなのかを知ることができる。
3つ目がプロモーションのところで、どういったデバイスが良いのか、サイネージが良いのか、紙が良いのか。
このあたりの位置とか大きさ、プロモーションの効果を得るためにGo Insightは大きな役割を果たすのではないかと。
郡司
それ知りたいですよね、確かに。たとえば、プロモーション。紙なのかサイネージなのかっていう検証って、今まではどうしてたんですか?
吉岡
実際ABテストが見られなかったっていうのは大きいですね。ですから、メーカーにしたら、ブランド部門・マーケティング部門・デジタル部門でこうあるべきだって進める部門と、広域営業で実際その商品の実務上販売店をやられているところ。
こういうの大体メーカーも組織を持たれていると思うんですが、そこが同じ土俵で会話できるというツールのなかでは、Go Insightはわりと大きな役割を果たしているんじゃないかな。
何かっていうと、ABテストの仮説を持ってきますね。既存品も新製品もプロモーションも仮説をもって、このタイミングをもってどう出るか。お互いにそれができたときに、マネキンを入れたとか、こういうサイネージを入れたとか、こういうメーカーに対する投資とリターンはどれくらいあったのかとか。
POSだけではないお客様の動きも含めて仮説づくりができて、結果検証ができる。
郡司
試食販売とかをやったときに、この場所の滞在時間はこれくらい延びたよねっていうのも当然検証になるわけですよね。
吉岡
そうそう。「この期間中のPOSデータをすぐ出せ」って言ったら、なかなか小売店ではすぐ出せていなかった。だけど、Go Insightならそのデータが即座に!
郡司
スピード感ってことですかね。
吉岡
スピード感もありますよね。とにかくデータが取れれば結果が見えてくる、次のアクションを取りやすくなるってことでしょうね。
前編では、Amazon Goに関する所感、そして日本版Amazon Goを目指した取り組みについて紹介した。後編では、Go Insightを用いてどのような取り組みを行ったのか、どのような分析結果を得られたのか、Go Insightの具体的な活用事例を紹介する。
※1:Developers.IO CAFE(デベロッパーズ・アイオー・カフェ)
モバイルオーダーとAmazon Go型のウォークスルー決済を組み合わせたカフェ
※2:EDGE(Enhanced Display for Grocery Environments Digital Shelves)
Microsoftと米国の流通・小売大手Krogerが展開するシェルフ型デジタルサイネージ。店舗の商品棚の前面部分にリアプロジェクションスクリーンを搭載した流通・小売向けのデジタルサイネージのシステム。
※3:SIRU+(シルタス)
スーパーのポイントカードを登録するだけで、買ったものの栄養がわかるスマホアプリ
※4:Amazon Goパッケージ写真(左:サンドイッチ / 右:サラダ)
※5:ToF(Time-of-Flight)
照射した光線が対象に当たり、反射光が戻るまでにかかる時間から距離を計測する技術
プロフィール紹介
株式会社ダイエー デジタル戦略室 デジタル推進部リーダー
吉岡 素成 氏 プロフィール
西友入社、企画室長、ストラテジー・インテグレーションシニアダイレクター、関係会社取締役。ネットスーパー・ネット通販等を担当する専門事業推進部シニアダイレクター。2007年イオン入社。ネットスーパー設立PT。イオンビスティ取締役物流部長。デジタル企画部長。2016年 ダイエー入社。ネットスーパー、ネット通販、デジタルマーケティング担当リーダー。現デジタル戦略室 デジタル推進部リーダー。
店舗のICT活用研究所 代表
郡司 昇 氏 プロフィール
1999年株式会社ランド設立。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。
2007年セイジョー入社。調剤事業部課長→営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年株式会社ココカラファインOEC社長就任。2016年株式会社ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。
2018年4月~現職。ITベンダーの持つ最新技術をどのように小売業で価値を持たせていくかをベンダー、小売業双方の三方良しを実現する手助けをしています。