POSデータとは|得られる情報と分析手法、無料データと購入データの違い

POSデータはおもに実店舗における、商品購入時のデータです。基本的には、スーパーマーケットやドラッグストアなど、小売店が保有しているデータですが、メーカーなどの企業もそのデータを購入して、営業やマーケティングのために活用しています。また、昨今は業界を問わずECを導入する企業が増えてきているため、メーカーがECサイトを自社運営している場合は、POSデータを直接入手できているケースもあります。

この記事では、オンライン・オフラインを問わずPOSデータとは何かを解説すると同時に、そのデータを活用してビジネスを改善するためのデータ分析手法についても紹介していきます。

POSデータとは?

そもそも、「POSデータ」のPOSはPoint Of Salesの略です。
そのため、日本語では「販売時点データ」といったように訳せます。

仕組みとしては、冒頭で書いたようなスーパーマーケットやドラッグストアをはじめとした小売店のレジ、あるいは飲食店であれば店員がハンディターミナルなどを使って注文を取ったときにPOSデータが記録されます。ここで記録されるデータの種類については、POSデータで取得できる情報で紹介します。

溜まったデータは、日毎や週毎、あるいは時間帯別や地域別といった軸(セグメント)で整理し、小売店企業やメーカー企業が、商品の売上動向を分析するために使われます。小売店に商品を卸しているメーカーの場合は、POSデータを直接得ることができないので、POSデータを扱っている企業から購入して利用します。

ただし、一部で次のような無料で入手できるオープンデータもあります。

参考:2021年 KSP-POS 食品スーパー新商品売れ筋ランキング|株式会社KSP-SP

有料のデータを購入する場合は、無料のデータよりも細かいセグメント抽出ができるなど、閲覧できるデータが異なっています。メーカーであれば既にPOSデータを定期的に購入している場合のほうが一般的ですが、もし会社でデータを保有していない場合は、まずは無料のデータを見てから、有料で購入することを検討すると良いでしょう。

POSデータで取得できる情報

POSデータで取得できる情報は、およそ次の通りです。

  • 品目:商品名のほか、社名やJANコードなど
  • 価格:小売店ごとに売価が異なるので、平均売価が出される場合もある
  • 顧客情報:ポイントカードなどによって、顧客のIDがわかる場合がある。ない場合でも、レジ店員が推定の性別・年齢を入力している場合がある
  • 時間:日付、時間など
  • 場所:店舗、会社(どの小売店か)など
  • PI:Purchase Indexの略で、商品がどのくらい買われているかを示すための指標。計算方法にいくつか種類があり、数量PI、金額PIなどがある
  • 販売店率:データを集計した店舗のうち、その商品を販売している店舗の割合 
  • 前期比:前週、前月などと比較した売上データ

こうしたデータをもとにして、自社商品の売れ行きなどの状態をチェックすることができます。

POSデータの活用方法:分析手法と注意点

ここからは、POSデータをどのようにビジネスに活用していくかについて掘り下げていきます。

POSデータ分析の目的:データを何のために使うか

POSデータに限らず、データ分析を行う前にすべきことは、目的を決めることです。

POSデータを購入した場合、POSデータで取得できる情報で紹介したような項目が羅列された一覧表を最初に見ることになります。先に数字の羅列を見てから考察を行うこともできますが、その方法だと多くの場合は単に数字を見た、というだけで終わってしまいます。

そのため、せっかく購入したPOSデータを有効に使うためには、「POSデータを使って知りたいこと」を先に明確にすることが重要です。ここで導き出したことが、すなわちPOSデータを利用する目的になります。

そして、目的が明確になった場合、基本的には単に提供されたPOSの一覧表を見るだけではなく、その表に何らかの加工を施すことが必要になるケースがほとんどです。このように何かの目的をもってデータを加工することが、いわゆる「データ分析」と呼ばれる作業になります。

POSデータを活用する目的は1つではないため、当然分析の方法にも絶対のものは存在しません。そのため、ここではPOSデータ分析でよく利用される、代表的な分析手法についていくつか紹介していきます。

POSデータの代表的な分析手法

データの分析方法については、多くの型が確立されてきているので、データ分析に慣れていない場合は、既に存在する手法から目的に合うものを探すのが良いでしょう。

また、同じPOSデータでも、小売店が分析する場合とメーカーが分析する場合では、目的が変わります。ここで紹介する分析手法は、自社の業態によって使いどころが異なるので、その点を加味して読み進めてみてください。

代表的な分析手法①:ABC分析

ABC分析は、複数の商品を扱っている場合に、どの商品を優先的に管理していくかを明らかにすることができる手法です。これによって、「売上に貢献している商品の在庫を確保する」「今後マーケティング投資する商品を見定める」といったアクションが取れるようになります。

数学の公式のような絶対的なものはありませんが、分析の仕方としてはおおまかに次のような手順です。

  1. 品目あるいは商品ジャンルごとなどで、売上高や粗利高をリスト化する
  2. 全品目を並べたら、品目ごとの売上や粗利の構成比(全体の何%を占めるか)を計算する
  3. 構成比が高い順にリストを並べ替えて、任意の基準で品目をA/B/Cグループに分ける

このようにして自社で販売もしくは取り扱いしている商品の、売上や利益に対する貢献度を明らかにすることができます。

代表的な分析手法②:バスケット分析

バスケット分析は、マーケティング界隈で有名な「おむつとビールの話」の元になった分析手法です。

記事の前半で紹介した、POSデータで取得できるデータの種類は、各商品に紐付いたデータです。これに加えて、入手するPOSデータによっては一緒に購入・注文した商品を知ることも可能です。それを生かして、「1回の買い物でセット購入されやすい商品は何か」を調べるのがバスケット分析です。

ABC分析よりも多少複雑ですが、基本的な分析手順は次のとおりです。

  1. 分析対象となる、商品の組み合わせ(商品Aと商品B)を決める
  2. 全体の購買データの中から、対象の商品ペアが含まれた決済(1回の会計/注文)の数と、割合(%)をそれぞれ出す
  3. [対象の商品ペアを購入した決済数] ÷ [商品Bを買った全ての決済数] を計算して、商品ABが同時購入されている割合を出す
  4. [商品Aを買った全ての決済数] ÷ [全ての決済数] を計算して、商品Bの購入率を出す
  5. 上の計算結果を使って、③÷④ を計算して商品Aが商品Bと同時に購入されている数を割り出す

5.の計算結果は、1.3や0.6など、小数になるはずです。これは、「商品Aが単体で買われる場合を1.0としたとき、商品Bが同時購入されている確率は何倍か」を示しています。

この分析をする際のコツとしては、組み合わせに関係なく高い確率で買われている商品は分析対象にしないことです。前者を含めて計算すると、そもそもの購買率が高いので、計算結果が正しく出ない場合があります。

また、商品Aと商品Bの組み合わせだけではなく、商品Aと商品Cなど、複数のペアで比較することでより精度の高い分析ができます。

代表的な分析手法③:RFM分析

RFM分析は、商品を購入した顧客をグルーピングし、そのグループごとにマーケティング施策を考えるための分析です。

RFMはそれぞれ、Recency、Frequency、Monetaryの略です。日本語にすると「購入経過時間」「購入頻度」「購入金額」です。基本的には、この3つの指標で顧客を評価・グルーピングします。

具体的な手順は次のとおりです。

  1. 決済ごとに、R(購入日もしくは経過日数)、F(何回目の購入か)、M(購入金額はいくらか)をそれぞれまとめてリスト化する
  2. リストを見ながら、RFMそれぞれで3〜5段階のランクを定義する。Rを例にすると、購入30日以内=ランク3、購入45日以内=ランク2、購入46日以上=ランク1など
  3. 手順①で作ったリストに、RFMそれぞれのランクを追記する
  4. RFMそれぞれのランク付けがされたリストを見て、顧客をセグメントする。たとえば、「RFMすべてがランク3=最優良顧客」、「RとFがランク1=離反顧客」など

この分析によって、現時点でどのような顧客がどのくらいの数いるのかを把握することができます。RFMそれぞれのランク付けは、扱う商品によって変わるため、自社のビジネスにあわせて定義していくことが必要です。

代表的な分析手法④: POSデータ以外との組み合わせによる分析

顧客IDに紐付いた属性データなど、ほかのデータとPOSデータを組み合わせることによって、さらに有用な情報を得られることもあります。

例の一つとして挙げた顧客IDに紐付いた属性データについて解説すると、たとえば生年月日や居住地、性別といったデータのことを指します。具体的な組み合わせ方としては、RFM分析に性別や年齢をかけ合わせることで、より鮮明に商品を買ってくれている顧客層や、離反しやすい顧客層が分かったりします。

データ分析を行う際に留意しておきたいこと

ここまで紹介した手法以外にも、POSデータを使った分析は複数あります。そのため、手法に惑わされず、自社のビジネス改善という目的をぶらさないために覚えておきたい点についても触れておきます。

数字を見てから考えるのではなく、考えてから数字を見る

データはいうなれば、単なる数字です。ここにどのような“解釈”を加えるかが、マーケティング担当者、販促担当者の腕の見せ所です。

もちろん何も加工していないPOSデータをただ見るだけでも気付きのあるデータだともいえますが、ビジネスに活かすためには、やはり見るべき指標を絞り込むことが重要です。

たとえば「地域における売上の違いはあるのか?」「マス広告が展開された時期の売上とそうでないときの売上はどのくらい違うか?」など、“明らかにしたい仮説”を先に考えてからデータを見ることが良いでしょう。

思い込みやバイアスへの考慮が重要

どのようなデータでもいえることですが、分析時には思い込みやバイアスが入ってしまう可能性を考慮することが大切です。

POSデータでは、「誰が・いつ・何を・どこで・どのくらい購入したか」を把握することは可能です。ですが、マーケティングにとって重要な「なぜ購入したか」については記録されません。そのため、データの解釈の仕方によっては、次の打ち手を間違えてしまう可能性もあります

たとえば商品の販売個数が前月より上がっていたとします。

この情報だけを見れば良いことのように思えるかもしれません。ですが、もし各店舗で在庫処分のために投げ売り価格になっていた場合は、ブランドイメージの毀損や、その後の売上鈍化のリスクがあります。

そのほかにも、たまたま自社商品の追い風になる情報がSNSやテレビのワイドショーで拡散された直後だったり、コンサートなどのイベントが行われた日に特定の店舗だけで瞬間的な売上が上がったり、といった要因もありえます。これらは良い話ですが、要因を特定できない限りは再現性がなく、場合によっては生産や出荷の計画を見誤る原因になってしまうかもしれません。

実は、こうした「なぜ購入されたか」という要因も、工夫次第でPOSをはじめとしたデータから分析することができます。販売数アップ=良かった、といった単純な結論づけではなく、その背景も踏まえた考察が重要です。

点ではなく線、そして面で顧客を分析するために

■このロケーションはストックフォト撮影用にレンタルし撮影を行っています。

前章でも示唆したとおり、POSはあくまで購買時点でのデータという性質があります。

特にメーカーの場合、「競合製品より売れていない」という結果を前にしたとき、その原因を特定する(仮説を立てる)ためには、POSという「点」だけに着目するのではなく、データや洞察を用いて「線」としての分析も必要です。

その一つが、POSデータとの組み合わせが有効な「棚前行動」の分析です。

棚前行動とは、店舗における売り場・買い場での顧客の行動のことをいいます。

単に自社商品が選ばれた・選ばれなかったという結果だけでなく、「他社商品を見るまでもなく一瞬で自社商品を買い物カゴに入れた」「パッケージの裏面を見るなど、複数の商品で比較されたあとに自社商品が棚に戻された」といったプロセスが棚前行動には隠れています

こうしたデータをPOSデータとかけ合わせることで、より多角的に状況分析や売上改善の対策を取ることができるようになります。

もし商品AがPOSデータ上では競合商品Bよりも販売数や売上が下回っていたとします。ここに棚前行動データが加わることで、次に取るべきアクションが変わります。

  • 商品Aは棚での接触頻度が高い:
    売上にはなっていなくても、興味自体は持たれていることがわかる。そのため販促施策によって売り方を変える、もしくは棚割りを変える・変えてもらうための施策を検討
  • 他の商品を迷うことなく競合商品Bがカゴに入れられている:
    まずは商品Aを比較対象と認識してもらうために、商品名や特徴など、認知向上のための施策を検討

こうした分析のために、弊社ではAIカメラを活用した「Go Insight」という店頭マーケティングの支援サービスを提供しています。店舗にAIカメラを設置し、棚ごとに顧客がどのような行動をしているのかを分析し、POSデータを補完するデータを取得・分析することが可能です。

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まとめ

この記事ではPOSデータがどのようなデータなのか、そして、ビジネスにどのように役立てられるのかを解説しました。

繰り返しになりますが、POSデータに限らず、あらゆるデータは仮説や目的があるからこそ、自社に役立つ情報となりえます。そのため、まずは「POSデータによって、今知りたい情報を得られるのかどうか」「POSデータをどのように加工すれば目的となる情報が得られるのか」を考えることから初めてみると良いでしょう。

また、最後に触れたように、POSデータだけでは分からない情報もあります。より多角的な分析を行うために、棚前行動をはじめとした複数のデータをかけ合わせることも、データ活用における重要なテクニックです。

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